【初めての林道ツーリング】


高校を卒業と同時に中型自動二輪の免許を取得した。中古のSDRを買って本格的にオートバイに乗り出したのが二十歳の時。それから250cc、400ccと所有するバイクの排気量 が上がっていき、大学を出る頃には、まだ当時難関と言われていた限定解除の試験を通 過していた。当時はガソリン代も捻出しなければならないようなカツカツの生活ではあったが、それも今では良き思い出として青春のアルバムの1ページにちゃっかりと収まっている。まさか自分が大型バイクを走らせているなんて、免許を取ることすらままならなかった高校時代からするとまさに夢物語のようなことだ。
そんな十数年のモーターライフの中で「オフロードを走ってみたい」と思いだしたのはいつの頃からだろう。エンデューロやモトクロス、はたまた林道のトレッキングに趣の異なるところではトライアルなど。夢(物欲?)は止まるところを知らない。学生時代から比べても今がそれほど経済的に豊になったとも思えない。カタナがちゃんと維持できているだけでも有り難いと思わねば。そんな暮らしの中ではオフロードバイクをセカンドとして所有することなど遠い夢のように思っていたが、人生とはまことに奇なるもので、予期せずパリダカが我が家にやって来たのが昨年末の話。

徳島県には全長87.7kmと国内最長の総延長を誇る林道が存在する。言わずとしれた剣山スーパー林道である。剣山スーパー林道は、昭和47年に特定森林地域開発林道「剣山線」として着工され、13年の歳月を欠けて前線開通 したもの。その長さゆえにランドサットからの衛星写真にも写るとか写らないとか(注:写 りません)。
県内在住のライダーならばこれを走らずにおく手はない。そうでしょう?そして今日はタケダ念願のダートにデビューする日なのだ。パチパチパチ。

いつもよりも少し早起きをしてお弁当のおにぎりを作る。お茶は昨夜のうちに家内がペットボトルに入れて凍らせておいてくれた。ひょっとしたら山中には食堂や自販機なんてないかもしれない。
そして出発前にはタイヤの空気圧のチェック。“万全の装備”を持ち合わせていないので出来ることだけはちゃんとやっておきたい。さて、スタンドで給油したらいよいよ出発だ。



お?ついに来たか

スーパー林道起点へ到着

スーパー林道まで市内から最短ルートをたどるのであれば、神山からの野間殿川内林道でアクセスすることになるだろう。しかし初めての林道走行なのだからきっちりと起点から終点までを制覇したいものだ。っというわけで上勝からのルートに決定。
徳島市内から国道11号線を南下して勝浦川沿いに曲がり上勝町へ向けて進んでいく。道中に月が谷温泉やキャンプ場があり、帰り道にここで温泉に浸かって帰ろうかとか、夏にはここにキャンプを張って泊まりで来るのもいいか、、、なんて考えながら走っていた。
月が谷温泉を越えてまもなく、『剣山スーパー林道→』の道路標識が待っていた。標識に従って進むと今度は『スーパー林道起点・終点木頭村 87.7km』とかかれたモニュメントがそびえている。おぉ、、、ついに来たか、、、と思いにふけながらも、実のところワクワクする気持ちよりも初めては知る未舗装道への恐怖心のほうがやや勝っていた。心境を表すならば、ワクワク・ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキである。
はて、なにやらモニュメントの下に工事看板が立っている。なになに20m先工事中?全面 通行止め?しかしながら20mの先の見渡す限りの視界には工事箇所は存在しない。まっ、気にせずに行って見ましょう。



起点の標識を越えたのだからすでにそこは剣山スーパー林道なのだろうと走るのだが、しばらくは一向にダートが始まらない。まして道沿いにまだ民家が点在する始末。・・・思ったよりもマイルドなのね、と思いながら走っていると、突然アスファルトがなくなってしまった。なんとも唐突にはじまるものなのだなぁ。
当初、林道の地面は真砂土のような粒度の高い状態ではなかろうかと想像していたのだが、実際は山肌を切り崩したあとを転圧して作られた道のようなので結構ガレた感じがした。たしかにガレているほうが自然ではある。ところどころ土砂崩れを起こしたりしてリアリティー満点である。途中リスが目の前を横切って行った。シマリスでもないしもちろんエゾリスでもなかった。願ってもないウェルカムセレモニーだ。
林道に来たら是非ともやってみたいと思っていたことがある。ドリフトだ。初めて走る未舗装路でドリフトをしようなんざ身の程知らずかもしれないがイメトレはバッチリだった。なぁに、トラクションオーバーでリアがアウトに流れたら下半身で車体をホールドしてカウンターを当てればいいのさ。オンロードと一緒じゃん。なんてあまいヤツなのであった。調子に乗って来たので速度を上げてコーナーに入ってみる。車体をリーンさせたところで大きくアクセルを開けてリアを空転、、、、あれ?グリップしちゃうのね。エンジンの出力とタイヤのグリップのバランスが取れてしまっているようなのでおいそれとは空転しない。それとミューの低いはずの路面 なのにタイヤって意外とグリップってするものだと感心した。
いつのまにかペースが上がっていたようでコーナーをクリアするたびにシフトを上げたり下げたりのくり返しの忙しいこと忙しいこと。目の前のコーナーに気を取られて次のコーナーの準備が出来てなくて道から落ちそうになったことも一度あった。しばらくして、ふと、ゆっくり走ろうと思いついた。「急がない」という術を最近になってやっと身につけたのだ。
トレッキングというのはこう言うのをいうのだなぁ〜、とトコトコと走ってみるがこれがなかなか良いものだ。途中、休憩を取ろうとエンジンを切ると耳に入ってくるのは、木々を揺らす風と耳慣れない小鳥のさえずりに沢のせせらぎの音だけだ。文明の発する音はなにも聞こえない。

 

ダートに入ってしまえばもうず〜〜〜っとダートだと思っていたのだけれど、ところどころ舗装してあったりするので凸 凹道での疲れの合間に休息がとれてちょうどよかったりする。しかしこう落石やワダチが多いとガックンガックンなっちゃってあんましキャンプ道具とか搭載しては走りに来れそうもないなぁ。ランタンの火屋(ホヤ)は間違いなく使い捨てになってしまうだろうし。夏には背負える程度の荷物でキャンプツーリングを計画するか。
そうしてダートと舗装路をくり返しながら20kmほど走ったところでとんでもないものを発見してしまった。


『スーパー林道道路復旧工事のため全面通行止』 、、、マ、マジっすか、、、、。
まだ1/4も走行してないというのにこれで終わりとは何ともあっけない幕切れではないか。しばらく呆然としてしまった。どうしよう、バリケードを除けて入っていってみようか。なんて考えもしたが以前九州で通 行止の看板を無視して進入したあげくに遭難しかけた記憶が脳裏をよぎった。やっぱやめとこ、初めてだし。
ひょっとしたら起点のところの工事看板に書かれてあったのは「20m先」ではなく「20km先」だったのかもしれない。いまさら確認のために引き返したところでアフター・カーニバルなのだ。
来た道を引き返すのも芸がないなぁ、ちょうど野間殿川内林道への分岐路だったので神山へ抜けて帰ることにしよう。

 

抜け道のために入った野間殿川内林道は完全な舗装路だった。それもこんな山奥に整備した道なもんだから交通 量が少ないためにアスファルトが傷んでいなくてきれいなもんだ。改めて思うけれど、舗装路はなんて走り易いんだろう。
途中、路肩に休憩用のパーゴラ(東屋)が設置されていたのでここで家から持ってきたおにぎりでランチにするとしよう。ランチといっても時間はまだ10時頃なんだけど朝食を取ってなかったからお腹がへってきていた。
それにしても車がぜんぜん通らないなぁ。スーパー林道に入ってからというものバイクにも車にも遭遇していないぞ。そりゃまぁ、平日の朝っぱらからこんなところをブラブラしてるヤツなんてそういないだろうけどね。しかし考えようによっちゃぁ、平日は狙い目だよなぁ、、、。

 

ツーリングにつきものといえばこれっ!日々の生活に疲れたら温泉に浸かって俗世の垢を落としましょう。予定では帰り道に月が谷温泉に行くつもりだったのだが事情が変わったので予定も変更なのだ。旅はいつもケ・セラ・セラ。右の写 真は神山町にある『神山温泉』。そのスペックは次の通り。源泉名:神山塩水温泉 泉質:ナトリウム塩化物-炭酸水素塩泉 泉温:源泉摂氏16.3度 効能:神経痛、筋肉痛、関節痛、冷え性、火傷、慣性皮膚炎など。平日の朝っぱらというシュチュエイションからするとこちらも貸し切りかと思いきや、ご高齢の方が多く訪れていた。訪れていたというよりも、老人会かなにかの旅行で泊まりで来てるような様子だった。
一日中パリダカで林道を走り尽くすつもりだっただけに時間を持て余してしまったので気の向くまま長湯を堪能していた。極楽、極楽。世の中の温泉には大きく分けて2種類の温泉しかない。フルーツ牛乳を売っている温泉と、そうでない温泉だ。それでは古式にのっとりまして、腰に手を当てたまま上体を逸らし一気にフルーツ牛乳を胃袋に流し込みます。神山温泉、合格〜〜〜!!

 

温泉を出たあと、フルーツ牛乳でほろ酔いキブンのまま家路に付く。湯上がりに体に風が当たって、こりゃイイ気分だ〜。マイナスイオンの風が火照った体を冷やしていく。本当にフルーツ牛乳で酔ったのかもしれない。
神山の町中でちょっと面白い看板を見かけた。何が言いたいのか分からないけれどとにかく「邪馬台国」と書いてある。・・・でたか『徳島邪馬台国説』。なんでもこの辺には『謎の古代文字研究所』なんてのもあるそうだ。個人的には古代史については非常に興味をそそられるし、歴史の闇に隠れた俗説というのも寛容に受け止めるスタンスではいるつもりだ。しかし邪馬台国はちょっといただけない。

 

 

 

 


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