第七幕
茄子撲滅同盟
佐田、登場
高澤:宅配便?送り主は?
佐田:「ピーマン嫌い会」からです。
高澤:何が入っていたのだ?
佐田:まだ確認しておりません。
高澤:もってこい。
佐田:はっ。
佐田、ダンボール箱をもってくる
高澤:大きいな。危険物の可能性はないのだな。
佐田:金属探知器には反応しませんでした。
高澤:開けてみろ。
佐田:はい。
佐田、箱を開ける。中を見たとたん顔をしかめる
中には茄子が詰まっていた。
佐田:うっ。
高澤:どうした?
佐田:な、茄子です!。大量の茄子です!。
高澤:・・・秋月君と久保君を呼んでくれ。
佐田:はい。
佐田、去る
秋月、久保、佐田、登場
秋月:失礼します。
久保:何があったの?
高澤:そのダンボールを見てみろ。
久保、箱をのぞく
久保:こ、これ。
高澤:「ピーマン嫌い会」からだ。おそらく我々への宣戦布告のつもりだろう。
秋月:ということは・・・
高澤:ああ。
「ピーマン嫌い会」が「キャベツ追放連盟」と手を組んだのはほぼ間違いない。
久保君、森瀬君の様子は?
久保:意識はもどったわ。でも・・・様態はよくないわね。
痛みは鎮痛剤で押さえてあるけど・・・。明日まで持つかどうか・・・。
高澤:そうか・・・。
秋月君、至急「きゅうり抹殺教団」と「トマトバスターズ」に連絡を。
佐田君は、「キャベツ追放連盟」の動きを探れ。
秋月,佐田:はい。
秋月、佐田、去る。
高澤:私は「反ニンジン組織」に行ってくる。久保君は、茄子を処分してくれ。
あと、・・・森瀬さんをたのむ。
久保:はい。
高澤、去る
第八幕
面談室。
BGM(安らぎの音楽)
高澤、久保が座っている
高澤:じゃあ、嫌いな食べ物はありますか?
久保:嫌いな食べ物・・・たくさんあります。
高澤:たとえば?
久保:いろいろ。昔から、好き嫌いが多いって言われてて。一人暮らしをはじめたと
きも母はいつも「好き嫌いせずちゃんと食べなきゃいけませんよ」っていうん
ですよ。
高澤:どうしても食べられないっていうものはありますか?
久保:そこまでのものはないです。アレルギーとかを別にすれば、人間食べられない
ものなんてないんじゃないですか?
高澤:でも、できたら食べたくないっていうものはあるでしょう?
久保:それは・・・あります。
高澤:なんですか?
久保:いろいろ。昔から好き嫌いが多いって・・・
高澤:一番嫌いなのは何ですか?
久保:一番?
高澤:そうです。一番嫌いな食べ物です。
久保:・・・
高澤:あるでしょう。その名前をいいましょう。
久保:・・・・
高澤:大丈夫です。言っていいんですよ。
久保:・・・茄子。茄子が、だめ。っでも、食べられるようにしなきゃだめなの。
(だんだん早口)茄子が嫌い。好きにならないと嫌いなの。あのやわらかい感触
が許せない。食べなきゃいけません。考えただけで気持ちが悪くなるの。茄子
が食べたいの。お母さんの茄子がおいしいの。食べると怒られるの。皮じゃな
いの。茄子を食べなきゃだめな子なの。違うの。悪いお母さんが怒るの。「食
べちゃだめ」って・・・
高澤:(食べたいののちょっと後)やめろ!やめてくれ。
高澤、両手で机を叩く
久保:え?・・・・
高澤:(はっとして)あ。
久保:・・・先生?・・・
高澤:いえ、あ、すみません。なんでもないのです。すこし疲れていまして。
今日はこれくらいで終わりましょう。
久保:え、でも・・・
高澤:本当に、すみません。その代わり、次回はどこか外に行きましょう。
久保:外?
高澤:ええ、外です。どこか行きたいところはありますか?
久保:・・・海。海の見えるところにいきたい。
高澤:では、比嘉岬に行きましょう。
寒いかもしれませんから、暖かい格好をして行きましょう。
高澤、去る
第九幕
茄子撲滅同盟
森瀬、ベットに寝ている。
その傍らに久保が座っている
森瀬:わしは・・・もうだめじゃ。そうじゃろ?
久保:・・・
森瀬:かくさなくてもいいんじゃ。
わしのからだのことじゃ、自分が一番ようわかっとる。
わしはもう十分に生きた。死ぬことは怖くはないんじゃ。
ただ、一つ心残りがあっての・・・
久保:なんなの?
森瀬:死ぬ前に一度だけ・・・・茄子を、茄子を食べてみたい・・・
久保:っなにをいってるの?あなたは茄子撲滅のために
森瀬:違うんじゃ。
・・・確かにわしは今までずーっと茄子を撲滅するために戦ってきた。
茄子を嫌いだったというのも偽りではない。
・・・・じゃが、死ぬんじゃったら、その、茄子の味を知って死にたいんじゃ。
久保:茄子を・・・食べたことがないの?
森瀬:わしの家は祖父の代からの由緒ある茄子嫌いでな、父はわしが子どもの頃から
「茄子には毒がある。だから、茄子は食べるな」といつも言っておった。
長男だったわしはその父の後を引き継ぐ形でこれまでずーっと茄子嫌いを続け
てきたんじゃ。
久保:・・・・
森瀬:「茄子撲滅同盟」の存在を知ったのは自動車工場で働き出して1年ほどした頃
じゃった。同盟といってもまだ先代の代表が一人で活動しておった頃じゃ。
それから数十年、わしは、ただひたすら茄子撲滅のために活動を続けてきた。
げほげほ。
久保:森瀬さん!
森瀬:(苦しそうに)せめて死ぬ前に、いや、死ぬ前じゃからこそ・・・
今まで戦ってきた茄子の味を・・・確かめておきたいんじゃ。
久保:で、でも、料理しようにも・・・ここに茄子はないわ。
森瀬:・・・「ピーマン嫌い会」から送られてきたのじゃろ?
久保:あれは、もう処分したわ。
森瀬:じゃったら、研究用のサンプルでもいいんじゃ。
久保:・・・・
森瀬:哀れな年寄りの最後の頼みじゃ。どうか、聞き届けてはくだされ。
久保:・・・・わかったわ。
森瀬:すまんのー、わがままをいうて。うう。
久保、去る
暗転
第十幕
面談室。
BGM(安らぎの音楽)
暗いままで
高澤:それでは、私に話してみてください。ためらわないで話してみましょう。
「こんな事話してもしょうがない」とか、「こんな話をしたら変に思われるん
じゃないか」とか考えるのはやめましょう。
ただ、ありのままに、思ったままに話してみましょう。
だんだんと明るくなってくる。
机の角をはさんで高澤と佐田が座っている。
佐田:思ったままに?
高澤:そうです。なにも遠慮することはありません。
佐田:殺したい。
高澤:殺したいほど憎い人がいるのですね。
佐田:ああ。だが、憎いんじゃない。ただ、そいつがそこにいることが許せないんだ。
高澤:その人はどんな人ですか?
佐田:彼女は、クライアントの一人だった。おとなしい女性。しかし、それも一つの
症状だったのだろう。
目立った症状は神経性無食欲症、いわゆる拒食症のそれだった。
高澤:な、何を言って・・・
佐田:しかし、実際にセッションに入ってみると、もっと複雑であることに気がつい
た。「これはかなり厄介だ」そうあんたは思った。
高澤:どうして、そのことを・・いや、違う、そんな事は・・
佐田:そして、今日のセッションで「茄子が食べたい」と彼女がいった。
その時あんたは思った。「殺したい」とな。
高澤:そ、そんな事は、ない。
佐田:そんな事はあるんだよ。あんたも本当は気づいているはずだ。
あの女を殺したいと考えたことに。
高澤:違う!
佐田:違わない。何しろ、あの女は嫌いな茄子を食べたいといったんだからな。
だから、殺すことにした。
第十一幕
茄子撲滅同盟
BGM−茄子撲滅同盟のテーマ
舞台端に久保登場
高澤:久保君、なぜ君が・・・
久保:・・・
佐田:理由は関係ありません。その女、久保ヨウコは我々茄子撲滅同盟の同士であり
ながら撲滅すべき茄子を調理し、しかもそれを仲間である森瀬正造に食べさせ
たという事実、それ自体が処刑するのに十分な理由なのです。
高澤:しかし・・・
佐田:なにを迷っているのです。
高澤:・・・
佐田:茄子撲滅のための5ヶ条!!
一つ、決して茄子を食することなかれ
高澤:(ちょっと驚きつつ)一つ、決して茄子を食することなかれ
佐田:(強く)一つ、決して茄子を調理することなかれ
高澤:一つ、決して茄子を調理することなかれ
佐田:一つ、決して茄子を作ることなかれ
高澤:一つ、決して茄子を作ることなかれ
佐田:一つ、見つけた茄子は速やかに処分すべし
高澤:一つ、見つけた茄子は速やかに処分すべし
佐田:(強く)一つ、裏切りは速やかに処刑すべし
高澤:一つ、裏切りは、・・・速やかに処刑すべし
秋月登場
秋月:だめです、「トマトバスターズ」も「きゅうり抹殺教団」も「キャベツ追放連
盟」が先にてをまわしてました・・・
秋月、周りの雰囲気に状況に気づく
秋月:ど、どうしたんですか一体?
佐田:久保ヨウコが茄子を料理して森瀬正造に食べさせた。
秋月:まさか、そんな。・・・嘘ですよね、ヨウコさん。
久保:・・・・
佐田:事実です。だから、処刑します。そうですね、代表。
高澤:・・・ああ、いや。しかし。
佐田:迷う必要はないはずです。いや、迷ってはいけない。久保ヨウコを処刑しなけ
ればいけない。殺すのだ。殺せ。久保ヨウコを殺せ。茄子に関わり茄子を調理
した久保ヨウコは死ななければならないのだ。だから殺せ。殺せ、殺せ。
秋月:(佐田の「迷っていけない」あたりから)ヨウコさん、本当なんですか?
・・・代表、待ってください。ほんとにヨウコさんが茄子を料理したとしても、
今まで一緒に戦ってきた仲間じゃないですか。処刑するなんてやめてください。
高澤:分かった。
秋月、佐田去る
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