第三幕 

 電車の中
 SE(電車の音)

 一幕と同じように秋月、天野が座っている


秋月:小学校の頃、いじめられていました。給食に出た茄子を残していたのが原因で
   した。当番のこはわざと僕の器ににたくさん茄子をいれるようになりました。
   先生もただ、「好き嫌いはだめだ」というだけで。給食のメニューにもだんだ
   んと茄子が増えていき、同時にいじめもひどくなっていったのです。殴られた
   りすることはあまりありませんでした。でも、悪口を言われたり、無視された
   りというのはいつものことで、机に油性マジックで茄子の落書きがされていた
   り、くつ箱に茄子が入れられてたこともありました。
天野:ずーっといじめられてたの?
秋月:中学校に入るといじめは無くなりました。
   給食じゃなくなったからかもしれません。
天野:よかったじゃない。無理して茄子食べなくてもよくなったんでしょ?
秋月:給食は無くなりました。でも、茄子の不幸はすぐにやってきたのです。
   それは、一年生の宿泊交流会のときでした。夕食が茄子だったのです。
   その日の夕食の係りの中に僕が茄子嫌いだということを知ってる子がいたんで
   す。だからきっとわざとメニューに茄子を入れて・・・
天野:その茄子は、食べたの?
秋月:食べました。残すとまたみんなにいじめられてしまうから、無理して、でも何
   事もないように、でも必死でなんとか全部食べました。そうしたらその後、気
   分が悪くなって、熱も出て。結局宿泊交流会の3日間ほとんど一人で寝ていま
   した。茄子のせいで。
天野:たまたま、体調が悪かったのかもしれないわ。
秋月:それ以外にもいろいろあったのです。前につきあていたヨウコさんと別れたの
   も茄子が原因だったんです。
天野:その人は茄子が好きだったの?
秋月:いいえ。苦手でした。もともと僕達が知り合ったのも茄子が嫌いだったってい
   うのがきっかけでしたから。ただ、ヨウコさんは茄子を食べたときの中身の感
   触がだめだっていうんです。僕は皮の色が嫌いなのに。 それで、もう一緒に
   やっていけないような気持ちになってしまったのです。
天野:それで別れたんだ。
秋月:少しの間は、それでも、付き合っていました。けど、僕の違和感がヨウコさん
   にも伝わったみたいで。それで、電話も少なくなり、会うことも少なくなり、
   いつのまにか別れていました。
天野:茄子のせいで?
秋月:そうです。茄子のせいです。僕の人生は茄子に呪われているんです。
   これまでも、そしてこれからもずーっと・・・
   あ、すみません、こんな話をしちゃって。実は、あなたで3人目なんです。
   でも、ちゃんと話を聞いてくれたのはあなたがはじめてなんです。
   みんな、「一緒に死にませんか」って言ったとたん、まるで犯罪者や異常者を
   見るような目で僕を見て、そして逃げていったのです。
   僕のことは気にしないでください。一人は、なれていますから。
   小学校のときも、宿泊交流会のときも、ヨウコさんと別れた後も・・・。
天野:どこで死ぬつもりなの?
秋月:え?
天野:自殺するんでしょ?どこで、死ぬつもりなの?
秋月:・・・まだ決めていません。とにかく北に行ってみようと思っています。
天野:それじゃあ、私も一緒に行くわ。比嘉岬にいって一緒に死にましょう。
秋月:ほんとうに?
天野:ええ。でも、その時にあなたが死にたいと思っていたらね。
   まだ、時間は十分にあります。ただ、私の役目はもう終わり。
   あなたはすでに変わったのよ。だから、

 天野、席を立つ。
 高澤、いつのまにか二人の横あるいは後ろにいる。

天野:(高澤に)あとはおまかせしますね。
高澤:え?私に?
天野:そうです。これはあなたの役目です。
高澤:私の役目・・・
天野:すべてのことはあなた次第なのです。
高澤:分かりました。

 天野、去る。
 高澤、秋月の横に座る。

高澤:それでは、私に話してみてください。ためらわないで話してみましょう。
   「こんな事話してもしょうがない」とか、「こんな話をしたら変に思われるん
   じゃないか」とか考えるのはやめましょう。ただ、ありのままに、思ったまま
   に話してみましょう。

 暗転

第四幕     面談室。  BGM(安らぎの音楽)  暗いままで 高澤:それでは、私に話してみてください。ためらわないで話してみましょう。    「こんな事話してもしょうがない」とか、「こんな話をしたら変に思われるん    じゃないか」とか考えるのはやめましょう。ただ、ありのままに、思ったまま    に話してみましょう。 久保:・・・・(沈黙)  だんだんと明るくなってくる。  机の角をはさんで高澤と久保が座っている。 高澤:どんなことでもいいです。夢の話でも、好きな小説の話でも。 久保:・・・・ 高澤:(ぽつりと)今日はどうやってここに来たの? 久保:(ちょっと子どもっぽい口調、でも声は大人って、難しい?) ・・・でんしゃで。 高澤:電車できたんだ。電車の中はお客さんがいっぱいいた? 久保:ううん、ちょっと。・・・だから、座って窓の外見てたの。 高澤:窓の外を見てたんだね。なにが見えたの? 久保:お店とか、電柱とか、あと、海も見えたの。海はね好きなの・・・・
第五幕   茄子撲滅同盟  秋月、森瀬 登場  (秋月、久保、森瀬、茄子の悪口を言い合う)  高澤、3人の話を聞いている 高澤:だからこそ我々「全日本茄子撲滅同盟」は茄子撲滅の目標に向かい一致団結し    なければならないのだ。 久保:代表、東雲地区の状況はどうだったの? 高澤:かなりひどい状況だ。あちらこちらに啓発のポスターまで貼ってあった。  佐田登場 佐田:工作員11号より報告。「萱町商店街の八百屋マルヒサに茄子が大量に入荷さ    れるという情報を入手。以後の指示を待つ」とのことです。 高澤:またか。ここの所立て続けじゃないか。 佐田:はい。管区内の茄子大量入荷は今月に入って報告があっただけで23件。    全体的に茄子の入荷量が増加傾向にあるというデータもあります。 森瀬:やはり「キャベツ追放連盟」のやつらが裏で手を引いてるのじゃろうか 高澤:ああ。「キャベツ追放連盟」は今期の総会で強硬派が実権を握ったらしい。    おそらく茄子嫌い矯正運動の黒幕も奴等だろう。 久保:でも、「キャベツ追放連盟」には、ここまで大掛かりな工作無理だと思うんだ    けど・・・ 高澤:問題はそこなのだ。「キャベツ追放連盟」はそれほど大きな組織ではない。    構成員の数は我々にさえ及ばないはずだ。 久保:やっぱり、あの噂、本当なのかしら。 高澤:噂? 久保:ええ。確かな情報じゃないんだけど、「キャベツ追放連盟」が「ピーマン嫌い    会」と手を組んだっていう話。「ダイコン根絶やし組」もそれに同調するとか。 高澤:なるほど。    それが本当なら、最近の茄子大量入荷や茄子嫌い矯正運動もうなずけるな。 森瀬:「ピーマン嫌い会」はかなり大規模な組織じゃからな。 秋月:茄子を大量に入荷させたりして、あいつらにどんな得があるんです? 久保:大量に出回るようになれば、それだけ価格が下がるでしょ。    そうするとそれぞれのご家庭で茄子を料理に使うことが増えるわ。 秋月:ううっ(いやそうに)。けど、だからって・・・ 久保:茄子をよく使うっていうことは相対的に他の野菜の使用頻度が少なくなるって    ことなの。 秋月:なるほど。 佐田:それで、今回の件については? 久保:罠という可能性もあるわよ。あまり、軽率に動くのはまずいんじゃないの? 森瀬:それでも、いってみるしかないじゃろう。    「ピーマン嫌い会」が本当に関わりおうとるか、確かめんとな。 高澤:そうだ。我々は待っているわけにはいかない。    各自襲撃準備。明朝06:00萱町公園に集合。 全員:はい。 佐田、久保、森瀬、去る
第六幕   電車の中   秋月、高澤、座席に座っている 秋月:別にこれといった悩みがあるわけではないんです。    まあ、小さな事はいろいろありますけどね。でもそれが日常だと思うんです。    ただ、その日常が崩れていくような不安を持ったり、その日常が何か妄想めい    て感じられたりしていたんです。 高澤:だから死にたいと思ったんですね。 秋月:その時は意識してなかったと思います。    ただ、なんとなく死にたくなっただけだったのです。 高澤:何かきっかけのようなものはありましたか? 秋月:何かはあったんだと思います。けれど、それはまだよく分りません。 高澤:自分では気づいてないことだと思うんですね。 秋月:はい。けれど、多分たいしたことじゃないんです。    僕が死にたくなったきっかけというのは。    少なくとも・・・・・あなたの抱えている悩みよりはずっと小さな日常です。 高澤:私の悩み? 秋月:そうです。僕に話してみてください。 高澤:・・・・ 秋月:ためらわないで話してみましょう。「こんな事話してもしょうがない」とか、    「こんな話をしたら変に思われるんじゃないか」とか考えるのはやめましょう。    ただ、ありのままに、思ったままに話してみましょう。    大丈夫です。ここには、僕と、あなたしかいないのですから。 高澤:・・・彼女は、私のクライアントの一人だった。おとなしい女性。    しかし、それも一つの症状だったのだろう。  秋月、去る

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