焼みかん／茄子４

第十二幕　

　比嘉岬
　ＳＥ－波の音
　高澤と久保が立っている

高澤：もう少し端の方に立ってみましょう。大丈夫です。落ちたりはしない。
　　　不安なら私が腕をつかんでいてあげましょう。

　高澤、久保の腕をつかむ。
　久保、一歩踏み出す。
　高澤、そっと腕をはなす。

高澤：風がきもちいいでしょう。
　　　海ですよ。遠くを見てください。ずーっと遠くです。なにが見えますか？
久保：・・・船、・・空・雲・・・
高澤：では、目を閉じてみましょう。大丈夫です。落ちたりはしない。不安なら私が
　　　腕をつかんでいてあげましょう。

　久保、目を閉じる

高澤：風がきもちいいでしょう。海ですよ。思い浮かべてください。頭の中に海をイ
　　　メージしましょう。なにが見えますか？
久保：・・・・
高澤：なにが見える？
久保：（子どもっぽく）・・・いいお母さん。
高澤：いいお母さんがいるんだ。いいお母さんは何をしているの？
久保：ピクニック。ヨウコと一緒にピクニックに来たの。天気がいいから海が見える
　　　ところでお弁当を食べましょうって。海は青くってお船がとおーくに浮かんで
　　　るの。お母さんのお料理はすっごくおいしいの。ヨウコね、お母さんが作った
　　　茄子がすっごく好きなの。ピクニックのときもいつも作ってくれるんだよ。
　　　あとね、サンドイッチも作ってくれるの。でもね、茄子を食べようとするとい
　　　いお母さんが悪いお母さんになっちゃって「食べちゃいけません」っていうの。
　　　ヨウコね、いいお母さんは好きだけど悪いお母さんは嫌いなの。だから、茄子
　　　を食べちゃいけないの。茄子を食べたらいいお母さんが悪いお母さんになっ
　　　ちゃうから・・・。
　　（最後のほう、徐々に小さく）

　　（久保のせりふの後半にかぶせて、ＢＧＭと佐田のせりふ）

　ＢＧＭ－茄子撲滅同盟のテーマのアレンジ（徐々に大きく）

佐田：殺せ。茄子が好きな人間はここにいてはいけないのだ。
（間）
佐田：迷ってはいけない。久保ヨウコを処刑しろ。殺すのだ。殺せ。久保ヨウコを殺せ。
　　　茄子を食べたいといった茄子が好きだといった久保ヨウコは死ななければならな
　　　いのだ。だから殺せ。殺せ。殺せ、殺せ、殺せ。
高澤：ぅぅうーわーーーー。

　高澤、久保の背中を押す。
　久保崖から落ちる

暗転
　ＳＥ－波の音


第十三幕　パターンⅠ

　電車の中
　ＳＥ－電車の音
　秋月、高澤が座っている

高澤：彼女は悲鳴を上げることもなく、ただ、崖の下へと落ちていった。いや、もしか
　　　したらずーっと誰かに話し掛けていたのかもしれない。私に突き落とされた事に、
　　　自分が落ちていっている事にも気づかずに。
秋月：どうして、突き落としたんですか？
高澤：分からない。ただ、彼女のことを殺さなければいけないような気がしていた。
　　　まるで何かに命令されているように。心の中で何かが「殺せ」と命じていた。
　　　そして気がつくと彼女の背中を押していた。
秋月：・・・・（暖かな沈黙）
高澤：昨日死体が発見されたらしい。警察は自殺という判断をしたと今朝のニュースで
　　　言っていた。しかし、彼女を殺したのは、この私なのだ。私が、彼女を崖からつ
　　　きおとしたのだ・・・
秋月：あなたは言ってましたね。まるで何かに命令されているような感じだったと。
　　　その何かは結局僕たち自身が作り出したものなのかもしれません。
高澤：・・・そう。多分、私の妄想だ・・・
秋月：いいえ。あなたの妄想ではなく、僕達みんなが作り出した存在なのです。それは、
　　　僕達が生きているということと同じ意味なのです。
　　　だから、気にすることはありません。
高澤：しかし、彼女は自殺したのではなく、私が殺したんだ。
秋月：それも、どっちでもいい事なのです。自殺にしろあなたが殺したにしろ、ヨウコ
　　　さんが死んだということに変りはないのです。
　　　ヨウコさんの魂はもう帰っていったのです。
高澤：たとえそうだとしても、私はカウンセラーとして、いや、人間として許されない
　　　罪を犯してしまった。
秋月：自分自身を許せないんですか？
高澤：分からない。あの時、私自身がなにを考えていたのかよく分からない。ただ、彼
　　　女を殺してしまったということは事実だ。人を殺すことは許されない罪なんだ。
秋月：そんな事はないです。あなたの罪は許されないものではない。
　　　その罪は、僕が許します。
高澤：あなたが？
秋月：そうです。あなたの罪は許されました。
高澤：それは、どういう事なのだ・・・
秋月：（かぶせて）トンネルを抜けると終点の駅です。次の電車が待っているはずです。
　　　僕は、またもとの日常に戻ります。
高澤：私は、これからどうすれば・・・
秋月:なにも気にすることはありません。今まで通りの日常に戻ってください。


＜＜ＥＮＤ＞＞




第十三幕　パターンⅡ　

　電車の中
　ＳＥ－電車の音
　秋月、高澤が座っている

高澤：彼女は悲鳴を上げることもなく、ただ、崖の下へと落ちていった。いや、もしか
したらずーっと誰かに話し掛けていたのかもしれない。私に突き落とされた事に、自分
が落ちていっている事にも気づかずに。
秋月：どうして、突き落としたんですか？
高澤：分からない。ただ、彼女のことを殺さなければいけないような気がしていた。
　　　まるで何かに命令されているように。心の中で何かが「殺せ」と命じていた。
　　　そして気がつくと彼女の背中を押していた。
秋月：・・・・（暖かな沈黙）
高澤：昨日死体が発見されたらしい。警察は自殺という判断をしたと今朝のニュースで
　　　言っていた。しかし、彼女を殺したのは、この私なのだ。
　　　私が、彼女を崖からつきおとしたのだ・・・
秋月：あなたは言ってましたね。まるで何かに命令されているような感じだったと。
　　　その何かは結局僕たち自身が作り出したものなのかもしれません。
高澤：・・・そう。多分、私の妄想だ・・・
秋月：いいえ。あなたの妄想ではなく、僕達みんなが作り出した存在なのです。
　　　それは、僕達が生きているということと同じ意味なのです。
　　　だから、気にすることはありません。
高澤：しかし、彼女は自殺したのではなく、私が殺したんだ。
秋月：それも、どっちでもいい事なのです。自殺にしろあなたが殺したにしろ、ヨウコ
　　　さんが死んだということに変りはないのです。
　　　ヨウコさんの魂はもう帰っていったのです。
高澤：たとえそうだとしても、私はカウンセラーとして、いえ、人間として許されない
　　　罪を犯してしまった。
秋月：自分自身を許せないんですか？
高澤：許せない。私は、この手で彼女を殺してしまったのだから。
秋月：・・・その場所に案内してくれませんか？
高澤：私が、彼女を殺した場所に？
秋月：そうです。そしてそこで・・・・

　ＳＥ－電車の音大きく

暗転

　テレビのニュース

（暗いままで　音声、かすかに）

今日午後６時すぎ、比嘉岬付近の海岸で男性二人が死んでいるのを近くの住民が発見し
警察通報しました。発見されたのは・・・・（Ｆ.Ｏ．）

＜＜ＥＮＤ＞＞

このシナリオには結末が二つ用意されています。
どちらを使うかは演出の方が決めてください。
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