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富士 さん ・・・平成21年6月3日・・・

 
 6月上旬早朝。ある衝動にかられ、普段では絶対に起きないであろう時刻に目覚めた。
 寝起きの悪い私であるが、この日は驚くほどすんなりと目覚めることが出来た。
 枕元の目覚まし時計を見ると午前3時27分。アラームが鳴り始める3分前。
 目覚ましの設定を解除し、身支度に取り掛かる──。

 「釣りに行きたい」
 幾日か前から湧き上がるこの衝動を抑える術は無かった。仕事中にも、食事中にも、
 寝る前にも込み上げて来る欲求。
 釣り好きの人間なら誰しも一度は体験しているであろう禁断症状と闘いながら、
 何とかデイリーワークをこなし、休日を迎えた。
 「誰も私を止めるものはいない」

 前日からばっちり用意していた仕掛けや竿を携え、勢い込んで車に乗り込む。
 時刻は午前4時過ぎ。初夏とはいえまだ辺りは暗い。
 アクセルを踏む右足の力をセーブしつつ、ガラガラの国道をひたすら北進する。
 目指すは鳴門市瀬戸町堂ノ浦。県内でも一二を争う釣りの聖地。まだ見ぬ大魚に
 思いを馳せ、車を走らせる。
 50センチ級のチヌ、60センチオーバーの真鯛、80センチを超すスズキ、
 ヒラメ・・・
 車内の妄想はとめどない。しかし、釣りに行く前の、この時間こそが釣りの醍醐味の
 一つであると私は思っている。

 道中の釣具店でシラサエビやオキアミを買い、目的地である堂ノ浦漁港に着く。
 時刻は午前4時50分。空も大分白んできた。
 早々と荷物を車から降ろし、既に到着していた高橋船頭とあいさつする。
 お世話になるのは細川渡船。私のひいきにしている渡船屋さんだ。
 2年程前からお世話になっているのだが、高橋船頭は屋形ビギナーだった私を一から指導してくださっ た。 その人柄にも魅かれ、私はここをホームにしている。

 午前5時。いよいよ船へ。向かうは流れのやや速いカセ。
 実を言うと、カセでの釣りは今回が初めて。まして覚えたてのかかり釣りでチヌに挑戦する
 無謀っぷりだ。
 屋形より釣りの難易度が高いカセ釣りに期待と不安が入り混じる。
 土と配合を貰い、渡船からカセへ。
 水面を覗くと確かに流れは速い。
 「この流れの下に見たこともないような大魚が・・・」
 ダンゴを練りながら、想像を膨らます。

 ハンドボール大のダンゴを5,6個同じ場所に投下し、待つこと数十分。
 高橋船頭いわく、
 「この数十分で魚は根つく」
 言いつけを守り、1分でも早く竿を下ろしたい誘惑に打ち勝ち、実釣開始。
 左手でダンゴをわしづかみ、アンコにこれでもかとシラサエビをぶちこみ、第一投。
 ここで異変に気付く。
 ダンゴが海底に着く前に、小刻みな当たりが!
 「ボラだ!しかもうじゃうじゃと」
 案の定、ダンゴが海底に達するとすぐに割られてしまった。
 「これは期待できる」
 高橋船頭の言う通り、数分待った甲斐があった。
 おそらく海底はパラダイス。魚の群れが間違いなく真下に!
 割れてからの当たりもすごい。
 間断なくボラのそれらしき振動が竿先に反応し、竿を持つ右手にまで伝わる。
 ここで焦ってはいけない。ここで焦るとボラをかけてしまう。
 かかり釣りにおいて外道であるボラは、例えそれが何センチであろうと、釣り上げても
 自慢にならない。
 ボラの当たりを最大限かわし、チヌの当たりを見極めてこそ、かかり釣りの真骨頂である。
 釣り番組でどこかのプロが言っていた言葉を思い出した。
 しかし、正直な所、初心者である私には判断に迷う当たりも多々あった。
 リールを巻き上げ、針を見てみると、シラサエビが半分にかじられている。
 餌取りの可能性もあるが、どこかでチヌの当たりがあったのではと私は思った。
 「今日はいける」
 やにわにテンションも上がり、二投三投とダンゴを打ち込む──。が・・・・
 当たりはあるもののなかなか合わせきれない。
 合わせるタイミングが遅いのか、そもそも当たりを捉えきれてないのか。
 一向に竿に重みを伴わない。
 開始から1時間。楽勝かと思われた今回の釣りは、実際の雲行きと同じく、
 どんよりと曇り始めた。

 雨、雨、雨・・・
 ポツポツと落ち始めた雫は、やがて滝のように私に襲い掛かる。
 厚手の雨合羽を貸してもらっていたので、寒くはなかったが、小船の上で一人佇む
 私には、寒さ以上の焦りと寂しさがあった。
 「早く最初の1匹を」
 そう願い一投一投集中してダンゴを送り込む。
 水を吸いぬかるんだダンゴは、海底に辿り着く前に割れてしまうこともあり、
 余計にもどかしさを感じた。
 雨の勢いが一層増してきた次の瞬間、竿先に心地よい重みが!
 「来た!」
 待望の初当たりが、竿をグイグイしならせる。
 「やった!」
 気色満面でリールを巻く。その刹那、無常にもプツンと糸の切れる感触。
 糸を巻き取り、切れた部分を見てみると、先端がよれよれになっている。
 どうやら針の結び方が悪かったらしい。
 釣り人にとって、初当たりをバラすのは非常に験が悪い
 しかも単純なミスでバラしたとなると、そのダメージは計り知れない。
 「やってもた・・・」
 針を結び直しながら反省する。だが、悔しさはそれほどなかった。
 それよりも実際に感じた手応えの余韻の方が大きかった。
 「次は釣り上げる」
 バラした後悔よりも、合わすことが出来た自信の方が勝った。

 それから二投後、コツを掴んだのかあっさりと魚がのった。
 竿先が大きな弧を描き、糸は勢いよく海中に引き込まれる。
 「逃してなるものか」
 二投前の失敗を教訓に、糸を出しては手繰り、出しては手繰り慎重に寄せに入る。
 が、魚の抵抗も激しい。5分ほど格闘を続けるも一向に顔すら拝ませてくれない。
 すごい力だ。
 カセの下に張られているロープに突っ込まれでもしたら、一大事。巻き上げ不可能に
 なってしまう。
 腕力もさることながら精神力も必要と、強い気持ちで動きに合わせる。
 右腕に疲れが見え始めた頃、魚も観念したのか次第に引きが弱まる。
 ここがチャンスとばかりにリールを巻くスピードを早める。
 魚影が見え始めた。かなり大きい。
 銀色に輝く細長い胴体。
 銀色?細長い?あれ・・・?
 水面に浮かび上がったのは見事なサイズのボラ。70─80センチはある大型だ。
 あれほど当たりに注意していたのに、この日の一匹目はあろうことか外道である
 ボラだった・・・。

 それからはボラ地獄が続く。
 来る魚来る魚、全てボラ・・・
 本命のチヌはなしのつぶて。合わせの下手さを身にしみて感じた。
 正午を回り、潮が一時止まる。同時に当たりも止まった。
 これまでの釣果はボラ5匹と潮止まりにたまたまかかったチャリコ1匹。
 一時休戦と弁当をむさぼる。雨はまだぱらついているが天候も少し良くなり、
 午後からの釣りに気持ちを切り替える。
 弁当を食べ終え、煙草を一服していると漁船がこちらに向かってくる。
 高橋船頭の船だ。漁船を小船の横につけ、高橋船頭は私に話しかけた。
 「調子はどう」
 「全然駄目です。ボラばっかりです」
 私が返すと、高橋船頭はかかり釣り用の竿を持ち、小船に乗り込んだ。
 「お手本見せよか」

 「手本」と称する高橋船頭の釣りは見事だった。竿を下ろし5分もたたず20センチ
 ほどのキビレを釣り上げた。
 もはや名人芸である。私のこれまでの時間は何だったのか。
 その後も「誘い」や重りを使わない「ゼロ釣法」、当たりの取り方、餌の使い分けなど
 テクニックを伝授していただいた。
 これまでにも何度か高橋船頭には、釣りの技術を教えてもらっている。
 ここまでしてくれる渡船屋さん、他にはないですよみなさん。

 ふんどしを締め直し、午後からの釣りに入る。
 教わった色々なテクニックを自分なりに駆使し、当たりを探る。
 雨も上がり、潮も動き出し、条件は整った。後は釣るだけ。自分に言い聞かし竿先の動きに集中する。
 ダンゴが割れ、ボラの当たりをかわし、流れに餌を乗せる。その矢先、微かに反応する
 竿先。
 タイミング良く合わせる。
 「乗った」
 引きこそ弱いがボラとは違う感触。巻き上げにも熱がこもる。
 水面に姿を現したのは紛れもなくチヌ。サイズこそ15センチほどのいわゆる小チヌだが、この日初の 本命である。
 タモもいらぬ小型だが、型以上の嬉しさがこみ上げてきた。

 この日の釣果は結局この1匹だけだったが、実りある一日だった。
 「次はもっと大物を」
 今はこのことばかりが頭をよぎっている。
 そしてまた休日に、禁断症状に駆られ、堂ノ浦に出向いている自分が容易に想像できる。
 既に釣りをされている方も、これから始められる方も、一度堂ノ浦に足を運ばれてみてはいかがでしょ う。
 まだまだ腕が未熟な私が言うのも何ですがこれだけは保証できます。
 「やっぱり釣りは面白い」 


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