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富士 さん ・・・平成21年6月23日・・・

 6月中旬深夜。県内も梅雨入りとあって前日から続く雨が気分を滅入らせる。
 午前5時に乗船予約。それまでにやむかどうか。最悪のケースを考え、車に雨合羽を
 積み込む。予報では風も少々吹くらしい。
 かかり釣りにおいて、風は雨よりも大敵である。少量の雨なら雨合羽で十分凌げるが、
 風はそうはいかない。糸があおられ当たりが取りにくくなる。今日は苦戦するか・・・

 午前3時頃の段階では、当日の釣りに期待できる要素はなかった。
 前日、前々日から続く大潮で午前5時の満潮を境に正午頃まで潮は高速で下がりっぱなし。
 しかも前 々日には、チヌ釣りトーナメントの予選が行われ、参加された方々は一様に
 苦戦されていたと聞く。そのような条件で私の如き素人に待望のチヌはほほ笑んで
 くれるのか。
 釣りに行く直前はいつも浮かれ気分の私であるが、この日だけは一抹の不安が去来する。
 「それでも時合いを掴んで何とか数尾・・・」
 運を天に任せる思いで、重い雨音が響く中、車を走らせる。

 降水確率70%。南の風海上では強く。当日のヤフーの天気予報。
 間断なく降り続いていた雨が、川内のバイパス辺りでやむ。
 また降り始めるか。いっそこのまま持ちこたえてくれ。車中で祈る。
 鳴門に到着した頃には、ぼんやりと辺りが明るくなってきた。雲の合間に切れ目。
 そこからお日様の光がうっすらと差し込む。
 「天は我に味方せり」
 本気でそう思った。渡船乗り場に着き、荷物を下ろしているともう一つ良いことが。
 風がほとんどない。懸念していた雨風という不安要素が取り除かれ、急に気持ちも
 高揚してきた。

 筏に乗り、軽快に準備に取り掛かる。今では太陽がはっきりと雲間から姿を現している。
 鼻歌まじりにダンゴを練りながら、追い風が吹いてきた今日の釣行に思いをめぐらせる。
 ──ボケはいつもの倍買ってきた。
 ──水に沈んだ重そうなサナギ何個か置いとこ
 ──コーンも買ってきたけど食べるかな
 ──シラサこないだ不発だったな
 ──ボラおるかな
 ──最初はオキアミでいこ
 ポイント作りに何個かダンゴを投入して待つ間が一番うきうきする。ハリを丁寧に
 道糸に結び付けて準備万端。いざ開始!

 ポイント作りがうまくいったのか、一投目から魚影は激しく濃かった。
 ボラ当たりこそなかったが、付け餌のオキアミはものの数秒で餌取りに亡き者にされる。
 魚の活性は高そうだ。
 「これは期待できる」
 が、序盤戦は餌取りのオンパレード。短時間で釣りも釣ったり、フグ、ウミタナゴ、
 アジ、キス、オコゼ、ベラ。ラッシュアワーのように雑魚が竿先をしならせる。
 「本命はまだか」
 珍しく魚はかかっているのに、贅沢にも不満を募らせる。朝の「今日は苦戦する」
 という不安はとうに消え去っていた。

 1時間以上餌取りとの応戦を続ける内、潮の変化に気付く。止まっていた潮が前へ
 前へ動き出す。同時にダンゴにボラらしき当たり。
 「そろそろ時合いか」
 竿を握る手、穂先を見る目に熱がこもる。
 ボラ当たりで割れたダンゴから付け餌が少しずつ前へ前へ流れる。
 底を保つように穂先を水面に近づけ、右手を前方に伸ばす。
 1分程流したその時に、クイッと小さく押さえ込む当たり。
 「チヌか」
 肩を支点にしゃくらぬよう大きく合わせる。竿先が心地よくしなる。
 「間違いない。今までの餌取りの当たりと違う」
 型は小さいが20a前後のキビレが水面に銀色の鱗を輝かせながら、浮上してくる。
 さも大物を釣ったかのように、丁寧にタモで取り込む。自然と笑顔がこぼれる。
 そして嬉しさと同時に安堵の気持ちがこみ上げてくる。
 「とりあえず一匹は確保した」
 ボーズに泣かされ続けた経験のある私は、最初の一匹を釣り上げると安心する。
 型は関係ない。とにかくボーズはまぬがれたとほっとするのだ。
 そしてごくまれに爆発することもある。「初日」が出て調子づくと、そこから
 入れ食いのようにポンポンと魚が上がりだす。かかり釣りでは一度も経験はないが・・・・
 「今日は二桁狙えるんじゃないか」
 勢い込んでダンゴを打つも、さすがにそこまで甘くはなかった。
 打てども打てども、餌取りをかけるか、合わせ損なう。チヌらしき当たりを合わせ
 損なった時の悔しさといえば形容しようもない。
 空振りを繰り返すこと数十分。ここから私に神が降りる。

 幾度となく失敗を繰り返し、餌のローテーションも変えながら臨んでいると、
 桶で元気に動き回る一匹のボケが目に留まった。ボケでの本日の釣果はフグ2匹。
 大物を狙えるが餌取りに弱い側面を持つボケをうまく使いこなせないでいたが、 
 目についてしまったものは仕方ない。尻尾からクルリとハリを巻き込み、
 ダンゴに埋め込み投入する。
 ボラ当たりですぐにダンゴは割れたが、餌取りの当たりはない。底を気にしながら
 しばらく流す。誘いもかけながら2分程流した時だろうか。穂先にわずかな当たり。
 ここは我慢。もう一回小さな当たり。ここも我慢。穂先を水面に近づけ少し糸を送り込む。
 刹那。
 大きく押さえ込む当たり。ひと呼吸置き落ち着いて、体全体で合わせる。
 ズシン!
 右手に伝わる重量感。フカセで釣った40aの真鯛より、何分もかけて取り込んだ
 大ボラよりも、その「ズシン!」は重く感じた。
 同時に糸が走る走る。竿が生き物のように右へ左へ暴れだす。
 「これは大きい」
 かかり釣りでの私のチヌの最長記録は、恥ずかしながら尺に届かぬ小中型のものであった。
 それでも堂浦のチヌだけあって、素晴らしい引きを楽しませてくれた。
 今回のそれは、今までの私の経験を遥かに凌ぐ、すさまじいものである。
 「クジラでもかけたか」
 冗談に聞こえるかもしれないが、そう思ったのだから仕方ない。
 未曾有の怪物との戦いである。
 慎重に魚の動きに合わせ、「怪物」の頭をこちらに向かせるよう竿をコントロールする。
 魚体が浮き上がってくると素早く糸を巻き取る。反転し潜り込んだら糸を出す。
 ひたすらこの作業を繰り返す内に、徐々に銀色の魚体が姿を現し始める。
 「でかい」
 魚の姿を確認できても、ここからが長い戦い。必死に潜ろうとする魚、取り込もうと
 する釣り人。焦りは禁物。この駆け引きを失敗してしまうと、今までの苦労は水泡に帰す。
 何倍にも感じられた数分の格闘にもピリオドは訪れる。
 哀れ力尽きたか、「怪物」は恨めしそうに私の方を見ながら水面から頭を出し横たわり、
 寝返りを打つかのようにタモに滑りこむ。
 格闘を制した私の方も、運動不足でなまり切った右腕はしびれて、足もガクガク震え
 ている。
 タモの中でピチピチ踊る「怪物」を見て、初めてえも言われぬ充実感と達成感が
 脳天からつま先まで、ズドンと雷にでも打たれたかのように走り抜ける。
 「やった」
 精悍な顔つきの「怪物」君は、まだ恨めしそうに私の方を見ている。

 メジャーを持ってきてなかったので、正確なサイズは分からないが、手のひらで
 おおよその計測をしてみると、優に40aは超えている。初めての尺上チヌだ。
 しかしどう目測しても50aには届かない。「年無し」でも「ロクマル」でもない。
 つまりこいつは私が想像していた「怪物」ではなかったのである。
 あれだけ豪快なファイトを楽しませてくれた「こいつ」より更に上がいるのだ。
 もしそんな大物を釣り上げることが出来たら・・・
 考えただけで身震いする。

 結局この日の釣果は正午まででチヌ3匹、キビレ2匹。
 チャリコも数匹上がり、今までのかかり釣りの中では一番良い出来だった。
 次回は二桁、そして「年無し」以上の大物を釣ってみたい。

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