(2012第8回)ぽんどの本場 8日間の旅−その2−

 自粛すべきかどうか迷いながらも、周囲の理解を得て、なんとか英国8日間の旅のスタートを切った私。旅行代理店の無配慮ぶりにぶつぶつ文句を言いながら、前泊地である羽田へと向かった。

【第1日目 10月8日(月)出国前夜】

ホテルにて


 予定通りに高知を発って、定刻20:25、すっかり夜も更けた羽田空港に到着した。

 ホテルは、空港の第二ターミナルに直結した便利な位置にある。荷物は、ポーターが運んでくれるという。部屋は広くて、普段私なんかが使うような格安ビジネスホテルとは、
格が違うことが一見して分かる。ツァーでなければ、こんなところに泊まることはないだろう。

 ドアがノックされた。ポーター氏である。20歳代かと思われる若者だ。

「どちらへご出発ですか?ああ、英国へ。初めてですか?私は、英国で少年時代を過ごしました。今頃、もう寒いから着込んでいったほうがよいですよ。あの国は、食事がおいしくないと言われますけど、卵料理とミルク、ソーセージはおいしいです。どうぞ楽しんできて下さい」

「朝3時にモーニングコールですか。もう今夜はずっと起きていて、飛行機の中で眠られた方が、時差ボケ対策になっていいですよ」

 アドバイスは有難いが、今夜ずっと起きているのは、やはりつらい。することもない。というわけで、朝3時まで寝ておくことにした。

【第2日目 10月9日(火)ひたすら飛行機の中、そしてチェスターへ】

ツァー一行38人

 午前3時、モーニングコールで目が覚めた。

 支度を整えて、集合場所に指定されたこのホテルロビーへと赴く。同行者の皆さんが、同じ旅行会社のタグがついたスーツケースを脇に集まっている。やはり、定年後と思われるご夫婦連れが多い。

 添乗員の藤田さん
(仮名。以下すべて登場人物は仮名です)が挨拶する。30歳代かとおぼしき女性だ。

 「おはようございます。このツァーは38名の方々にご参加いただいています。帰国まで私が同行いたしますので、よろしくお願いいたします」


 一昨日、彼女から事前確認の電話がかかってきた時、丁寧かつしっかりした印象をもったが、その印象どおり。しかし、年配の人が多く、連れ合い以外は初対面の人ばかり38人もの団体を引き連れて外国を案内するのは、なかなか大変だろうなと思う。

 「実は今日の搭乗便の出発が遅れるという知らせが入っています。6:25発のところ、7:50発になるということです。申し訳ありませんが、出国手続きなどを済まされてから、出発ロビーでお待ち下さい」


 なあんだ。それなら、もうしばらく眠れたのに、と思うが、これは藤田さんの責任ではない。私たちは、空港内で通貨を両替したりコーヒーを飲んだりして時間をつぶした。 

フラッグ・キャリア

英国のフラッグキャリア B航空に乗り込む やっと搭乗案内のアナウンスが流れた。

 事前に知ってはいたが、エコノミー席の座席配列は3−3−3。つまり、3人掛けシートが横3列だ。チェックインの際に「通路側を」と希望したのに、私の座席は、真ん中の列のその真ん中だ。かみさんの席は通路側でも、並びの席の私は真ん中へ追いやられた、というわけである。
とんでもなく窮屈。この座席で12時間もじっと座るかと思うと、それだけでウンザリしてきた。

 
「もしや右隣は空席かも」という淡い期待を持っていたが、すぐに満席となり、私の右側には、髪の色だけでは日本人か西洋人か判別しかねる若い女性が腰を下ろした。

 私たちが搭乗便は、B航空。
ナショナル・フラッグ・キャリアと呼ばれる英国代表選手のような航空会社である。

 いつも、海外に出掛ける時には、機体が離陸した瞬間に
「これでしばし日常のしがらみとおさらば」という解放感にひたるものだが、今回はそういう感慨さえ湧かない。座席が窮屈だと、精神的な解放感さえ吹き飛ぶものらしい。

B航空のCAさん

1回目の機内食はイングリッシュ・ブレックファースト B航空機は、飛行を続けている。

 座席前ポケットには、ヘッドホンと一緒に歯ブラシセットも入った袋が備えられていた。なかなか気が利いている。

 全席に備えられた前面モニターを操作して、「映画」を選択すると、言語に「日本語」もあった。これはいいや、と5本ある日本語モードありの映画を観ていたが、どうも面白くない。途中で観るのをやめた。

 こうなると、
もう退屈で退屈で仕方ない

 やがて飲み物のサービスが始まった。私は、迷うことなくビールを注文。男性パーサーからバイワイザーを受け取り、胃へ流し込む。さっさと酔っ払って機内で眠ってしまおうという算段である。ここで改めて気がついた。この便の客室乗務員は、男性が半分近い。男女とも、フレンドリーだ。

 その後、第1回目の機内食。軽めではあるが、いわゆる「軽食」とも言えない。そして、結構おいしい。これが
いわゆる「イングリッシュ・ブレックファースト」だということは、後で知った。

シベリア上空

眼下に広がるシベリアの大地 さて、ビールを飲むと、どうしてもトイレへ行きたくなる。隣席のかみさんを肘でつついて、機内後部へと進む。

 用を足したあと、通称エコノミークラス症候群とやらの予防のため、足の運動をしていると、窓の外が明るい。ふと覗くと、果てしなく広がる大地が眼下に。
シベリアだ。なんという広大さ

 黒く見えるのは森林だろうか。その中に白い筋のように見えるのは、雪をかぶった低地や道路かも。シベリアの上空を通過したことはあっても、昼間に見下ろしたのは初めて。
息を呑むような光景だ。

 果てしなく続く森の中を大河が流れている。近くにいたパーサーに
「What is the name of this river?」と尋ねる。彼は、時計を見ながらフライトマップを広げ、あちこちめくって調べてくれたが、結局、両手を拡げて、日本語で「ゴメンナサイ」と一言。

窮屈と退屈

狭い座席 窮屈と退屈の二重苦 前面モニターでフライト状況を見てみる。まだシベリア東部上空だ。速度は約900km/h。つまり毎分15kmも進んでいるのだが、遅々としてなかなか動かないかのように見える。

 窮屈と退屈。
拷問を受けているかのようなフライトだ。今までにも、関空・バンクーバー間、成田・シカゴ間、上海・フランクフルト間など、長距離飛行は経験しているが、こんな風に3人掛け椅子の真ん中で、しかも何もすることがない、というのは初めて。腰も痛いし脚も痛い。

B航空のCAさんと 思えば、この夏ごろから、右足の軽い痺れが痛みになり、歩くのも少々辛いまでになっていた。この英国旅行に出たい一心で整形外科に通院して、医師の指導により、ストレッチとプールでの水中歩行を繰り返して、やっと症状が軽くなったばかりである。

 私は、隣席にどかっと居座っているかみさんを何度も肘でつついて立たせ、通路に出て脚の屈伸を繰り返した。機内の気温が低いせいか、トイレに行く回数もやたら多い。こんなものだから、眠ることもできない。

 
「ああ、早く地上に降りたい!」と心の中で叫ぶが、羽田・ロンドン間の、まだ半分も飛んでいない。「まだ7時間も・・・」と、思ってよく見ると腕時計の針が停まっている。電池は交換したばかりなのに、気圧の関係で故障したのだろうか?「こら!しっかりしろ!」と叩くと、秒針が動き出した。

 それでも、まだ6時間以上。溜息が出た。

じっと動かず12時間

やっとここまで飛んできたが・・・ 結局、12時間の飛行中、
ほとんど眠れず休めず、じっと動かず

 そのくせ、あと2回の食事は、意地汚くアルコールも含めて普段より多いくらいに摂る。職場の保健指導で申告したら、大目玉を食らうことだろう。

 そんな長い長いフライトを終えて、大勢の人でごった返すヒースロー空港に着いたときは、本当にほっとした。


 窮屈・退屈な長時間フライトを終えて、やっと英国の土を踏んだ私。
 しかし、これからまた狭い座席に缶詰になろうとは・・・。

 そのお話は、また次回に。

−続く−

(2013/03/30)





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