(2012第7回)ぽんどの本場 8日間の旅−その1−

絵葉書のような

 2012年10月13日(土)、私は、英国イングランド西部、バースの街中を歩いている。
 天気の変化が激しいこの国では珍しいとも言われる青空が広がる。

バースの街の公園 ユネスコの世界遺産に登録されたこの町。古い石積みの建物は、重厚そのもの。道路には、馬車が行き、教会からはウェディングベルが鳴り響く。結婚式に参列する着飾った人々と可愛い子供たち。

 郊外に目をやると、見渡す限り緑の絨毯を敷き詰めたような丘陵が広がり、丘の上に石積みの住宅群が並ぶ。近くには、芝生のあちこちに色とりどりの花々が咲く公園に市民たちが憩い、川が流れる。

 この町だけではない。ここへ来るまでに訪れた町々、途中の車窓から見た風景。
 それらは、私の期待をはるかに超える美しさ。絵葉書のような、という言い古された形容が、まさにふさわしい。さすが、埴生の宿、グリーンスリーブスなど、珠玉のようなイングランド民謡を生んだ土地である。

 英国は、日本との関わりも深い。明治維新の扉を開く際、パークス、サトウ、グラバーなど、この国の外交官や商人が大きな役割を果たした。明治以降は、多くの若者が留学生として、この国の技術、法制、文化などを学んで我が国に持ち帰ったし、海軍、鉄道など、日本がこの国をお手本にしたものは数多い。明治期の日英同盟は、日露戦争に際して、陰に陽に影響を及ぼし、極東の小国・発展途上国が超大国ロシアに勝利する一因となった。そして、先の太平洋戦争では、激しい戦闘を交わした。私の伯父も、陸軍軍人としてビルマ戦線において英軍と戦い、戦死している。

 このたび、その英国を旅してきた。
決して感動の連続だけではなく、脂汗が出そうな辛苦も経験した。それらを記録するとともに、親しくしていただいている皆様にもお伝えしたい。そうした思いから、この旅行記を記すことにした。

 今回もお付き合い願えたら、幸いである。

入社35周年

 まだまだ若いつもりだった私も、ふと気がつくと、
定年まであと2年。そして、今年は入社35周年。「自己啓発奨励」を目的とした記念休暇を取得できる。10年前の前回25周年の際には、中国の上海、蘇州、桂林、西安、北京を回ってきた。そして、ずっと前から「35周年はどうしようか」と楽しみにしてきた。

 ところが、昨年3月11日、東日本大震災が発生し、私が属する業界にも激震が走った。果たして、予定通り休暇がとれるか?とれたとしても暢気に1週間も海外へ出掛けることが許されるような雰囲気だろうか?自粛すべきではないか?

 しかし、多分、現役サラリーマンとしては、「長旅」に出られる
最後の機会。幸い今なら老親の健康状態も、落ち着いていて、かみさんも同行できそう、ということで、職場関係者への根回し、仕事の予定調整などを重ね、なんとか8日間の旅行に漕ぎ付けた。

英国について

かつてビッグベンと呼ばれていたエリザベスタワー 行き先は、若い頃から一度は行きたいと思っていた英国。

 3年前の春、財団法人に出向していた折に、旅行の申し込みをしていたのに、抜け難い仕事が飛び込んできて泣く泣くキャンセルした旅先である。いわば、今回は
リベンジの旅だ。
(なお、この時には、代替措置として、GWの期間中だけを利用した台湾ツァーに参加した)

 今まで、豪州、カナダ、香港など英連邦に所属またはかつて所属して、その文化の影響を大きく受けている国・地域には足を運んだことはあっても、
英国本国は、全く初めて

 とは言え、今回はスコットランドなどに足を延ばす余裕がなく、ほぼイングランドだけに絞ったことや、事前に目を通した「英国の内情」を描いた書籍の中身が、いずれも「紳士の国はもう昔話」など、英国の悪口三昧であったことなどから、
事前の期待も、まあ、ほどほどだったことも事実である。

2つのツァー

女王が週末を過ごすウィンザー城 今回の旅は、大手旅行会社のパックツァーを利用した。添乗員の持つ旗の後をついて行けばよいお気楽旅行である。

 当初、
関空発着、欧州乗り継ぎでエジンバラに飛び、英国を回るツァーを申し込んでいたが、全く同じ日程で「高知発着 羽田発直行便でヒースローに しかもサーチャージ込み」というツァーを新聞織り込みチラシの中に見つけ、急遽、こちらに乗り換えた次第。キャンセル料がかかる直前だった。

 高知からの旅費を概算すると
一人当たり10万円以上も安く上がる。エジンバラには行きたかったが、他の行き先はほぼ同じ。高知・関空間の足と宿を自前で手配する必要もなく、代金に含まれる食事回数なども、後から見つけたものが有利だ。これだけ差があると、選択肢は限られてくる。

 ちなみに、両方とも同じ旅行会社の、別々の営業所による企画である。旅先で何度も同じ旅行会社の団体と出合ったが、私がキャンセルした方のツァーの一行もいたかも知れない。

行程

 確定した行程は次のとおり。

10月8日(月・祝)
 高知発最終便で羽田へ 羽田空港内のホテル泊

10月9日(火)
 羽田発早朝6:25 直行便で英国ヒースロー空港へ
 バスでチェスターへ 同市内観光

10月10日(水)
 ハワーズ、湖水地方へ

10月11日(木)
 リバプール、トレヴァーなど

10月12日(金)
コッツウォルズ バイブリーのスワンホテル コッツウォルズ地方(バイブリー、ボートン・オン・ザ・ウォーターなど)

10月13日(土)
 コッツウォルズ地方(カッスルクーム、バースなど)

10月14日(日)
 ロンドン市内観光

10月15日(月)
 ヒースローAM9:05発 羽田行き直行便で帰国

10月16日(火)
 羽田早朝4:55到着 国内線に乗り換えて高知行き始発便にて高知帰着

【第1日目 10月8日(月・祝)】

憤りの最終便

 スーツケースと機内持ち込み用バッグ2つずつを愛車に積み込んだ私たちは、高知龍馬空港に向かっている。今回の同行者は、かみさん。娘とも一緒に行きたかったのだが、研修終了後の実質社会人1年生が8日間の休みを取るのは、ちょっと、ということで、今回は欠席である。

 搭乗便は、この日の羽田行き最終便。これについては、
言いたいことが山ほどある

 旅行会社のチラシにも送られてきた行程表にも、搭乗便は、この日のどの便になるか未定と書いてあった。ただ、「ホテルは14時からチェックイン可能です。ゆっくりお休み下さい」との記載があったので、翌日午前4時には出発ロビーに集合しなれければならないことも併せて考えると、当然、この日の羽田便は午前中か遅くとも午後一番くらいになるかと思っていた。

 ところが、出発の1週間前になっても搭乗便の連絡がなく、催促してやっと届いた便名は、なんと19:15発20:25羽田着の
最終便。いったい、どうやって、「ゆっくりお休み下さい」というのか。出来れば、この機会に少しばかり、銀座の風を吸うか、スカイツリーの下を散策してもいいな、とも考えていたのに、それが一切できないではないか。自分の個人旅行のスケジュールを組む時にも、こんな便を選ぶのか?と旅行会社のプロにもの申したい心境である。

 そんな気持ちで車を運転していたら、空港への近道の交差点を行き過ぎてしまった。やむを得ず遠回り。いけないいけない。冷静にならなくちゃ。 


 とにかく、人生初の英国への旅はスタートした。かの国の通貨はポンド。「ぽんど」を名乗る私としては、おおいに親しみを覚える。言うならば、
「ぽんどの本場への旅」である。
 しかし、もう決して若くはない「ぽんど」の長旅だ。楽しいこと、愉快なことばかりではないかも知れない。果たしてどんな試練が待ち構えているだろうか?

 それは次回以降、ぼちぼち、ということで。

−続く−

(2013/03/23)





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