(2012第6回)片道90分の海外旅行−最終回−
韓流ドラマの舞台巡りと買い物目当てのオバサンの中に紛れ込んだ黒一点。そんな私が参加した2泊3日の格安パックツァーも、いよいよ最終日後半である。
【第3日目 2月14日(火) 帰国の途に】
ヤスイヨ!
昌徳宮の見学を終えてバスに向かう途中、オジサンが私たちに寄ってきた。手には某有名ブランド品に一見よく似たポーチ。
「3ゼンエン。ヤスイヨ、ヤスイヨ」と売りつけようとする。
中国には、こうした物売りがゴロゴロいるが、韓国では初めてである。昨日、この手の品物を買いに行っていたオバサンたちを含め、誰も買おうとしない。偽ブランド品にも等級があるそうだが、路上で立ち売りしているものなど、粗悪品に違いないと見てのことだろう。もちろん、私たち夫妻も無視。
ない!ない!
昌徳宮のお次は、またまた免税店へ寄った後、昼食のため仁川国際空港近くのレストランへと向かう。もうこの旅も終盤だ。
バスの座席で私は、とんでもないことに気付いた。デジカメがない!のである。
コートのポケット、ジャケットやズボンのポケット、ウェストポーチの中などを探し回る。ない!ない!どこかで落とした?いや、盗まれたのだろうか?
当初は冷静だった私も、次第にあせってきた。カメラ本体もさることながら、この旅の記録である映像がすべて手元から消えてしまうことが悔しい。
バスのマイクを使って、ゴッドヌナが帰国手続きや手荷物の機内持ち込みに関する注意事項をあれこれと説明しているが、すべて上の空。どこを探してもない!
意外なところに
バスの座席の下も覗いた後、もうあきらめるしかないかと観念した矢先、ふと思いついた。ひょっとして、かみさんが、お尻の下に敷いていないか?と。
「ちょっと腰を浮かせてみて」と私。
あった!やはり図星だった。
昌徳宮からバスに戻って着席するとき、私のポケットからデジカメが隣席に転がり出て、そのまま、かみさんがその上に座っていたのだ。急いで拾い上げ、押しつぶされていないか機能を確認した。ああ、よかった。すべて無事だ!
にしても、かみさんは、小さなコンパクトデジカメとはいえ、カメラをお尻の下に敷いて気付かないとは・・・。
次はどこへ
わずか3日間とはいえ、ずっと一緒に行動していると同行者の皆さんとも親しくなっている。
昼食のビビンバ(韓国語では「ピビンパップ」。最後のプは聞こえないくらい小さく発音する)を食べながら、話が弾む。
高知から友人同士で来られたお2人は、偽ブランドなど買いに行かなかった人。そのうちの1人、川上さんは、私の中学高校の1年先輩。川上さんのほうが、私の顔を覚えていて話し掛けてくれたのである。
「今まで行かれた中で、どこが良かったですか?」と川上さん
「アジア諸国では、ベトナムですね。食べ物がおいしいし、物価は安いし、何よりも地元の人たちがフレンドリーでしたから」と私たち
「わあ、いいなあ。いくらかかりました?」
「B社のツァーで、3泊4日サーチャージ込み49,800円。安いでしょう?」
「安〜い!次はベトナムへ行こうかな」
旅好きな者同士、こういう情報交換は、本当に楽しい。
アンニョンヒケセヨ
仁川国際空港は、とにかく広い。鈍くさい私たちは、迷子、いや迷い中年になりそうになりながらも、何とか帰国便へのチェックインを完了。
ここでゴッドヌナこと朴さんとお別れだ。大柄で迫力のあるお姉さんだが、とことん親切で気配りのよくできる韓国女性だった。
韓国語の「さようなら」は、出発する人と見送られる人とで言葉が違う。
出発する人から見送る人には「アンニョンヒケセヨ」
見送る人から出発する人には「アンニョンヒカセヨ」だ。
直訳すると
「アンニョンヒケセヨ」は「どうぞ安寧にお過ごし下さい」
「アンニョンヒカセヨ」は「どうぞ安寧にお出かけ下さい」
ということになり、「お元気で」「道中ご無事に」を丁寧に言い合うわけである。
まことにゆかしいお別れの言葉だと感じる。
私は朴さんに「アンニョンヒケセヨ。モムジョシムハセヨ」(さようなら。お身体に気をつけて)と声を掛けた。
朴さんは、「アンニョンヒカセヨ。コンガンハセヨ」(さようなら。お元気で)と、手を振りながら笑顔で答えてくれた。
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古来、我が国は、朝鮮半島から多くのことを学んできた。この地域の人たちとは、容姿、言語など似通った点も多く、両国民は、良き隣人として互いに尊重しあいながら親しくお付き合いしなければならないはずである。なのに、日韓の歴史を振り返ってみると、限りなく暗く、かつ重い。そして、それは私ごときが簡単に語ることは許されないものかも知れない。
帰途のアシアナ航空機の機内でも、飛行中の現在位置を示すマップに、面積で言えば図面上に表示されるまでもないほどのごく小さな島である竹島が表示されていた。地名表記は、韓国名であるDokdo(漢字で書けば「独島」)だった。そして、私たちが「日本海」と呼んでいる海は、East
Sea(東海)という韓国名で。
領土。歴史認識。両国間に横たわる問題は、きれいごとを並べて解決できるものではない。
しかし、対立と相互不信で固まってしまうのでは、進歩も発展もない。
日韓両民族の間に意識や文化など、いろいろと違いはあっても、共通点も多い。私自身、親しくお付き合いさせていただける韓国人が増えるほど、その礼儀正しさや優しさを実感する。
もっともっと交流を深め、理解し合うことこそ、両国民の進むべき道だと思う。
なんと言っても、片道90分で行き来できる隣人同士なのだから。
片道90分の海外旅行 −完−
(2012/04/12))