おしょながSS第一章第一話

 

 

遊   「早くしないと遅れるよっ!」

セーラー服を着ている女の子…永原遊が玄関のドアを開けて中に向かって叫ぶ
どうもその急いでいる様子から見て学校に遅刻しような雰囲気だ

将輔 「ああ、ごめんごめん」

そんな遊とは反対に妙にゆったりしている男の子…谷本将輔はやっぱりゆったり
靴を履いてバッグを背負い玄関から外に出る

遊   「うう…今日も遅刻しちゃうってば!」
将輔 「まあ…じゃあ、急ごう」

遊が自転車を用意している間に玄関から一人の女性が出てきた
名前は永原陸、遊のお姉さんである
20代前半にしてはかなり落ち着いていて清楚なお姉さんである

陸   「あら、早く行かないと遅れちゃいますよ?」
将輔 「ええ、こんな時間ですから……ってボクはやっぱり学校行かなくてもいいような」
陸   「いえいえ、ちゃんと学校は行っておかないとダメですよ」

将輔はある事件に巻き込まれてこの世界にやってきた
だから学校に行く暇があるなら元の世界に帰る手段を探すべき…と将輔は考えている
のだが、世話になっている陸さんが

陸  「将輔さんは高校生なんですから、学校に行かないとダメです」

と笑顔で言うので居候である将輔は頷くしかなかった
かくしてこうして毎朝、寝坊する遊と一緒に学校に行くハメになっているのである

遊   「急ぐよっ!将輔ちゃん!…いってきま〜っす!」
将輔 「っと…じゃ、いってきます」

将輔が自転車の後ろに乗って遊がペダルを漕ぎ出す
時間は8時25分…後5分で行けば間に合うのだが
普通に漕いでいれば10分はかかる距離だった

陸   「いってらっしゃい」

急ぐ遊と将輔を見送って陸は家の中に戻る
この家は御食事処「ながはら」として営業している
近所でもなかなか評判の良いお店で永原家全員で
陸は調理担当でお昼の間は全部一人でこなしていて
あと、遊と蓮…この時間は学校に行っている一番下の妹は学校が終わってからの手伝い
そして最近、居候になった将輔を含めて経営していた

 

 

 

 

 

遊   「じ…時間!」

必死になってペダルを漕ぐ遊が叫ぶ
腕に時計をつけているが見る暇はないので聞いてみた

将輔 「後3分ぐらい」

後ろに楽そーに乗っている将輔がまたまた楽そーに答える
普通なら将輔が漕ぐところだがどうも遊が漕いだ方が早いそうだ

遊   「じゃ、スピードアップして!」
将輔 「はいはい」

<…って言ってもアレ疲れるんだよなぁ

将輔はそう思いながらも後ろに手を突き出して力を込める
すると薄い緑色の風が出てきて…

遊   「きゃ〜、楽チン楽チン」
将輔 「事故らないでね〜」

将輔が使ったのは風の能力
この世界に来てからこの能力が使え始めたのだこっちでは当たり前なのである

こうして風の能力を使って時速約50kmの自転車は
沖縄、与那城の町を疾走していったのであった

 

 

 

 

 

 

”キーンコーンカーンコーン”

チャイムと同時に教室の中に入る
今日もどうにか間に合ったようだ

将輔 「疲れた〜」
遊   「疲れた〜」

朝から少し汗を掻いた二人は教室の後ろの方――つまりは自分の席に着く
将輔は窓際の後ろ、所謂”不良の特等席”
遊はその隣に座って大きく息を吸って整えた

潤   「おうっす、今日も遅いな」

と、先生の話の途中で将輔の前の席の男子が後ろを向いて話し掛けてきた
名前は柏村潤と言って将輔が転校して来てすぐに友達になった
将輔が転校してきたのはまだ一週間程なので将輔は少し話し掛けられて緊張していた

将輔 「あ…うん、何時もの事だけどね」
香澄 「やっぱり、遊の寝坊?」

前の席…潤の隣の席の女の子、橘香澄が話に加わってきた
香澄と潤は幼馴染で遊に言わせると後一歩、の関係だそうだ

将輔 「なかなか起きてくれなくて…」

<…寝相も悪いし

と心の中で思い出して少し顔を赤くして言葉を返す

遊   「う…だって起きれないものは起きれないし」

この話を聞いていた遊は声を小さくして言い訳する

<…あんなに寝てるのにおかしいぞ…

将輔が見る限り、遊の就寝時間は午後10時
一介の女子高校生が寝るには幾許か早い気もするが部屋で何かやってるかのかもしれない

そして先生の話も終わり1時限目の授業が今日も始まる

 

 

 

 

 

 

「今まで挙げた例のように、水属性と火属性は本来は相対するものではないんだ
 しかし、それを使う…仮に火の能力使いが『水能力だとかき消されそう』とか思っていると
 水能力が火に打ち勝ったり、また逆もある…と言う訳だ。ま、気持ちの問題だな」

昼休み前の4時限目も、もうそろそろ終わりを迎えようとしている
クラスの大半はもうすでに学食へ行く準備をしたりしているが
将輔だけは先生の話を誰よりもよく聞いていた

元々、将輔はあまり勉強は得意ではなく
元の世界にいた時の成績も中の下と言う位だった
しかし、授業を聞いていると言う事はただ面白い、と思ったからである

元の世界にはない、極めて自分に関係のある内容
それが将輔にとって新鮮であり、興味を持ったようだ

”キーンコーンカーンコーン”

やがて心理の授業も終わり
それぞれの生徒が弁当を広げたり、購買・学食に走ったりして出て行った

将輔はゆっくりと陸に作ってもらった弁当を取り出して蓋を開ける

香澄 「何時見ても美味しそうだね」
潤   「ああ、とってもうまそうだな」

前の席の香澄と潤が将輔の弁当を覗き込む
陸の作った食べ物はとてもおいしく
御食事処「ながはら」…ここではみんながつけた愛称「おしょなが」だが
そのおしょながで新作が出るたびに学校の話題にもなっている

遊   「おいしい〜」

早くも食べ始めた遊がにこやかな顔でおいしさを表現した
それをうらやむ二人に将輔は多少おかずの交換をしたりしていて昼食は終わった

残りの昼休みは次週にある期末考査の話になった
将輔は転校して早々だがテストと聞けばやはり気が重たくなる

だが、どうも内容が違うと言う事に気づいてきた

将輔 「…ペーパーテストじゃないの?」
潤  「期末は実習だからな、将輔がどんな攻撃するのか楽しみだぜ」

遊  「将輔ちゃんはこういう実習テスト初めてなんだよね」

将輔が違う世界からやってきた事はまだ他の人には話してなく
知っているのは永原家姉妹だけだった
遊が言うには

「秘密ってなんかかっこいいじゃな〜い、まだみんなには内緒にしよー」

と、謎な意見を出してそれ以来
将輔は「本州に住んでいる遠縁」との微妙な立場にいる

<しかし…あのいかにもたくらんでますって顔は…

将輔は遊のフォロー(?)を聞いて顔を見る
その顔は絶対何か隠していると一発でわかるような顔だった

香澄 「それじゃ初めては頑張らないとね」
潤   「おう!特訓しろ!特訓!」

かくして今日から皆で特訓する事になった
だが、将輔にはいまいちよくわかってなかった

将輔 「…」

<特訓って何?

そう思いながら今日の授業は頭に入らずに過ぎていき
そして放課後になって他の3人はこれからの予定を話し始めた

遊   「じゃ、一回帰ってから集まると言う事で」
潤   「わかった、香澄…遅れるなよ」
香澄 「う…大丈夫だって」

当人が放っておかれるのも問題だが
将輔はそんな3人をみて何故か嬉しく思っていた

 

 

 

橘香澄の家の前で柏村潤はかれこれ10分は待たされていた
時々「お、重い〜」と声が聞こえてくるのだが潤は何か嫌な予感がしていた

<荷物…か?

潤の荷物はと言うと汗を拭くためのタオルぐらいしか持ってきていない
潤が聞いたところ将輔はこういうテストは始めてらしく
まずは身体を馴らすために今日は軽くやろうか、と思っていたのだが

潤 「香澄〜!まだか!?」

”ガチャリ”

声をあげたその次の瞬間、家のドアが開いて香澄の顔が出てきた
潤は遅れた香澄を見て文句の一つでも言ってやろうかと思ったが
その後ろの物体を見て唖然となった

潤 「…その荷物はなんだ?…なんで?」

香澄が背負っている荷物は今から山へ登ろうかと言った具合に大きかった

香澄 「だって…泊まり込み……」
潤   「それにしては……多いだろ」

潤は改めて香澄の背負っているリュックに目をやる
男が背負うとしてもかなり多い量だ
実際、香澄は顔を赤くしながら必死で背負っている
足はふらふらで息が多少あがっている

<…なんか色っぽいな

そう言って潤は自分で顔を赤くする

<なんでこいつを色っぽいとか思わないといけないんだよ

香澄と潤は幼馴染で小さい頃から何時も一緒だった
こんな感情は今までにもあったが最近どうも多くなっていた

潤  「重いだろ、手伝ってやるから早く行くぞ」
香澄 「あ、ありがと〜…」

<ま、しかたねえな…

気持ちを入れ替えて潤は香澄のリュックを背負って「おしょなが」へ急ぐのであった

 

 

 

 

 

 

 

”ガラガラ”

潤  「こんちわー」

「おしょなが」の入り口扉が音を鳴らして開く
暖簾をくぐってきたのは柏村潤と…

香澄 「ぐ!…ぐーっ!っと!」

入り口でつかえていた荷物をどうにか中に入れ込んだ橘香澄だった

お皿洗いをしていた将輔
料理を作っていた陸
お客に定食を運んでいた遊
そして数名、早い時間から食事をしていたお客がいっせいに入り口の方を向く

否、正確には香澄が背負っている荷物の方にだ

その中で末っ娘である永原蓮だけは黙々と空いた食器を片付けていた

遊   「その荷物、何?」

一瞬とも思われた時間―約10秒もの間をおいてようやく遊からのツッコミが入る
潤は最初に見たときにもう諦めたのか遠い目をしていた

香澄 「何?って…泊まり込みの」
遊   「それにしては多くない?」

つい家を出るときにも聞いた台詞である
それを聞いた香澄は困った顔をした、いまさら

香澄 「やっぱり、多いんだって〜」
潤   「当たり前だっ!」

 

 

 

 

四人はお店から少し歩いたところにある浜辺に集合していた
どうも学生の練習場所になっているせいか何人かのグループがちらほら見受けられた

潤   「よしっ…じゃあ、将輔はいっちょオレと組み手をやるとして…」
将輔 「ちょ…ちょっと待ってよ!…組み手って…」

将輔は今まで組み手なんてやった事はなかった
どうも不安な顔をしていた

遊   「そうだよね、いきなり組み手ってのも…柏村君、強いしー」
潤   「学年トップの人間が何言ってるか」

潤の言った学年トップの意味を理解するのに少々時間がかかったが
将輔は驚いて声をあげた

将輔 「いっ!?遊ちゃんってトップでしたか…」
遊   「えっへっへー…永原姉妹は全員トップクラスの使い手なのですよ」

将輔はほーっと感心していた

<んー、人は見かけによらないのかなぁ

 

 

 

名目上は本州から来ていると言うわけで将輔はテストのことについて教えてもらっていた

潤   「テストはトーナメント対戦方式だな、ほとんど」
香澄 「グループが組んでってのもあったんだけどーね、それは滅多にないからね」

将輔はテストの内容にも驚いていた
テストではなく格闘技大会のような気さえしてきた

とテストの事を教えてもらっていよいよ簡単な組み手をはじめることにした
もっともスタンダートな遊が将輔の相手になった

遊が実体化(刀のような剣)を構えて横に薙ぐ
将輔は後ろに下がってそれを避けて懐に入ろうとする

将輔の実体化は短剣なのでどうしてもリーチで負けている
相手を倒すには速攻、奇襲は勿論全ての攻撃において相手の隙を狙うしかない

横に薙いだ剣がまた逆に戻る

将輔 「うお!」

慌ててまた後ろに下がる
遊はそれを予測していたのか逆薙ぎの途中で剣を止め間合いを詰めて刺突を放つ

遊 「はい、まず一勝目〜」

将輔の身体に当たる前に剣を消す
ちなみに将輔は砂浜に尻餅をついて目を開いていた

将輔 「あ、…ああー、負けたー」

<強い…なぁ

 

 

 

 

 

最初の組み手が始まってから早1時間
回数にすると40回を超えていた

将輔 「はぁ…もう一本」
遊   「ふぅ…はいはい」

両者ともかなり疲労していて動きも緩慢になっていた

香澄 「将輔君、なんか凄いね」
潤   「鬼気迫るものがあるな」

この二人は二人で休憩を取りながらも組み手をやっていたが
途中から将輔と遊の組み手を見るようになっていた

香澄 「青春〜?」
潤   「…だな」

潤はまるで師匠と弟子だな、と思ったが口に出さなかった
師匠と言ってしまうと倒される運命にあるからだ

将輔 「こ…降参〜」
遊   「41勝目〜!将輔ちゃん…ノックアウト!」

壮絶な組み手も遊の41勝目で終わった

 

 

 

 


<あとがき>

 おしょながSSリニューアル第一話です
 旧作では1〜5話をまとめております
 …がずいぶん変わりましたねぇ