部長と章人君の普通な部活生活3
「梅雨であるな」
出だしが前回と同じような気がするけど今日も部長は部室で外を見つめていた。
ここ毎日のように雨が降っていて勉強にも身が入らない…せいにしておこう。
「なんで梅と雨、で”つゆ”なんでしょうね?」
「それはだな奈津君。名前の通りこの時期は梅の実が熟す期間であるからだ」
「へー、さすが部長さんです!」
相変わらず妙な知識はあるんだからなぁ。
と、感心してないで宿題、宿題っと。
「宿題かね?章人君」
「ええ、早いうちにやっておこうと思いまして」
すると部長はゆっくりとした動作で振り返り、またまたゆっくりと拍手した。
…つまり、またろくでもない、と言うことだ。
「そんな章人君に私からの宿題だ」
「…拒否権はないんですか」
「えー?面白そうですよ?私も手伝いますよ」
「うむ、許可しよう」
拒否するどころか助長されたんですけど。
面白そうって…。
「『梅雨を快適に過ごす方法』を考えよう」
平日昼前の奥様向けTV番組みたいな…。
「宿題と言うよりは議論だが…
梅雨に入り空気が湿っていて不快指数もうなぎのぼりの毎日である。
それを払拭すべく如何にこの素晴らしき学校生活を愉快にそして快適に過ごせるかどうか
君たちに話し合ってもらいたい」
「一部よく判らない表現がありましたがまあ、いいでしょう」
そんな些細な事をいちいち気にしていると胃に穴があくよね。
「クラスに除湿機とかどーです?」
…
「…」
「…」
…
……
………
「…近藤さん、それはどうだろ…」
「素晴らしいアイデーァだな」
つーか唐突に除湿機が出てくる女生徒も凄いよな…。
「だがしかし各クラスに除湿機を設置する予算が無い訳だ」
「ありゃー、(´・ω・`)ザンノーン」
「…」
なんか思いっきり顔文字的表現されたような気がするが…。
不思議に思ってるのは僕だけだろうか。
「だが着眼点はなかなか良い」
「ですよねー、もうちょっとーなんですよねー」
頭が痛くなってきた…。
「大人しく定期的に風を通すぐらいの方法にしておきましょうよ…」
「却下、面白くないし」
「えー、つまんないですよー」
二人は『ねー』と顔を見合わせてから僕の意見を思いっきり否定した。
なんか非常に腹ただしい。
「部長は何か思いついてるんですか?」
部長はこちらの質問に「ふっ…」と鼻を鳴らすとホワイトボードになにやら書き始めた。
別にそんなのしなくてもいいのになぁ…。
「シリカゲル置くのはどうだろうか」
「僕たちは煎餅じゃないです」
間をおかず突っ込む。
除湿機よりランク下がってるし。
「いやー、章人君は手厳しいなぁ」
「いいアイディアだと思ったんですけどねー」
わっはっは、と二人は笑う。僕はまったく笑えない。
なんだか…疲れてきたなぁ…。
途端にゴロゴロと音がした。どうやら雷みたいだ。
「ふむ…雷が鳴るということはもうすぐ梅雨も明けるか」
「これから暑くなるんでしょうねぇ…」
空が一瞬光って凄い音がする。
その後、部室でも凄い音がした。
「近藤さん?何してるの?」
「あ…あ、あー、わたし雷ダメなんですよー」
怖いものあったんだ。てっきり怖いもの知らずだと…。
「おやおやどうやら雷注意報が出ているな」
部長が懐からラジオ…のようなものを出してイヤホンで聞いている。
「傘差して帰ったら落雷にあったりしますっ!?」
「その可能性は否定できないな、まあ、当たったら凄い事だ。宝くじでも変わりに買ってもらうか」
何を暢気な…。
「冗談はさて置き…章人君、近藤君を送っていきたまえ」
「…は?」
「怖がっている女性をほうっておいて一人で帰るつもりかね?」
「…はいはい、わかりましたよ」
どう答えても部長は肯定の返事を待つに間違いない。
ここは大人しく従っておくことにしよう。
「それじゃお疲れ様です」
「おつかれーさま〜」
「ああ、それではな」
「章人君は女性に淡白だからな…ま、何事も精進だ」