脂肪細胞の働き
かつて脂肪細胞は体内に吸収された余分の脂肪や糖質から合成された中性脂肪を蓄えるだけのいわば貯蔵庫のようなものだと考えられてきました。

しかし、近年脂肪細胞は様々なサイトカイン(生理活性物質)を分泌し、高血圧や糖尿病、動脈硬化の発症、予防に関係していると言うことが解ってきました。脂肪細胞は体内の最大の内分泌器官であったわけです。

脂肪細胞の違い
同じ脂肪細胞でも皮下にたまる脂肪細胞と腹腔内にたまる内臓脂肪細胞とは少し異なった働きがあると考えられています。

皮下脂肪細胞に比べ内臓脂肪細胞は細胞数はあまり増えませんが、細胞自身が肥満し、悪玉のサイトカインを分泌しやすくなります。つまり、リンゴ型肥満の方が、内臓脂肪を蓄積しやすく、高血圧、糖尿病、動脈硬化疾患を起こしやすくなります。

ところが、内臓脂肪は減量や運動により速やかに小型化し、悪玉のサイトカインの分泌が少なくなります。一方皮下脂肪はなかなか改善しません。

この事から皮下脂肪は銀行の「定期預金」内臓脂肪は「普通預金」と比喩されます。

運動や食事療法でおなかの皮下脂肪が減らないのはその為ですが、内臓脂肪は少なくなっていますので、効果は速やかに発現します。

細胞の部位 皮下脂肪 内臓脂肪
肥満のタイプの傾向 洋なし型 リンゴ型
男女の傾向 女性に多い 男性に多い
サイトカインの分泌 少ない 多い
減量や運動による改善 遅い 速やか
肥満による細胞の増減 細胞数の増加 変化なし

アディポサイトカイン
脂肪細胞から分泌される生理活性物質をアディポサイトカインと呼びます。代表的なものにアディポネクチン、レプチン、FFA、TNF-α、PAI-1などがあります。はっきり生体に有利に働くと判明しているのはアディポネクチンだけです。

これらの作用はまだはっきりと解明されておりませんが、アディポネクチン以外の大半のアディポサイトカインは生体に対して悪い方に働くと考えられています。つまり、インスリン抵抗性を増大させたり、動脈硬化促進作用、凝固能促進作用をもたらすと考えられています。
アディポネクチン
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌され、肥満状態や内臓脂肪過多状態で低下し、体重減少によって増加します。

糖尿病患者、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)患者で低下していることが知られています。

通常は血中に多く存在し、抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、抗炎症作用を有し、いろいろな生活習慣病の予防に大切な働きをしていると考えられています。

一方肥満によりアディポネクチンの低下した状態では高血圧、糖尿病、動脈硬化、脂質異常症(高脂血症)を引き起こすと考えられます。

また、低アディポネクチン血症は肝硬変、心不全、慢性腎臓病(CKD)、癌の発生とも関わっていると考えられています。
レプチン
レプチンは脂肪細胞から分泌されるサイトカインの一種で、通常は肥満によって増加し、脳の視床下部に作用し、食欲減退、エネルギー消費量増大、抗インスリン抵抗性を増大させるように働き、肥満の影響を少なくしようと防御的に働いています。

ところが、肥満状態が続き、ある程度以上になりますと、レプチンの効果が無くなってきます。これを「レプチン耐性」といいます。このような状態になりますと、いくら食べても満腹感が無くなってきます。

増加したレプチンは今度は高血圧を引き起こし、生活習慣病の原因になってしまします。