―― 汀にて その後編 ――
      


    


 もう上がるのかよーと文句たらたらながら、
シャンクスは律儀に上がってきた。
素裸を晒しつつ――
 陸に控えていた“若いの”が慌てて、クロスを差し出す。
「サンキュ」
 笑顔の大盤振る舞いをしているところからして、機嫌は悪くないのだろう。
いや、その笑顔一つでどきまぎしている“若いの”のおかげで機嫌がいいのか……





「お頭、いい加減にしろや」

 虚しいと知りつつ、言ってみる。
 忠犬よろしくシャンクス振り回されている“若いの”が哀れに思えて。






「何を?」
 案の定、しれっと聞き返された。

 “若いの”が競って差し出した布で、がしがしと髪を拭いている様は、
確かに放っておけない気にさせるが……が、しかし……
「若手の連中にちょっかい出すのを、だよっ」
 隙だらけでヤソップの前に立つシャンクスは、
“若いの”が慌てて着せ賭けた大判のクロスを腰に巻き付けたままという格好だ。
どうかすると、落ちてしまいそうで、周りからの視線が離れがたく彷徨っているのが分かる。




 ったく!なんで、こんなのを……
 悪趣味ヤローどもが!と心の中で毒づいてみるが、
事実は事実でいかんともしがたいものがある。

第一、己自身がシャンクスに“誑かされて”海に出た以上、説得力もヘチマもない。
赤髪海賊団の面々は、揃ってお頭にいかれてる、のだ。
シャンクスもそれを十分承知しているくせに、

「俺ぁー何にもしてないもん」

 嘯くのだ、このいい年した大海賊団の頭目は。
 猫のようにきらめく目と、端をつり上げ笑みを形作った唇でもって。
何より、空気をゆらりと揺らす一瞬の動きでもって――





「心配いらねえって。俺には副ちゃんがいるって、みんな知ってんじゃん。
それに、第一」
 シャンクスはにっこりと邪気のない笑顔をヤソップに寄せた。

「そもそも、俺に誑かされたからって、不幸になったヤツなんているか?」



 二の句が継げないというのは、こういう場合に使うのであらう……



 それは確かに真実――

 シャンクスには副船長が付(憑)いているというのは、誰もが知っている。
知った上でシャンクスに惹かれ、なおかつ、それを後悔する者はいないのだ。


 こ、この性悪猫がーー!



 あまりにも本当すぎて、ヤソップが口をぱくぱくさせてる間に、
岩場の副船長の姿を認めたシャンクスは、とっとと行ってしまった。
 副船長にもたれ掛かるようにして、髪を拭いてもらっているシャンクスは、
カッツェにそっくりだった。
 離れたところから見ても、今にも喉を鳴らしそうに上機嫌なのが見て取れる。
周りで見ている者の存在など、あっさり“気持ちいい”に押し流されたのだろう。
一通り拭いた後、即刻引きずるように連れ去られq
のを見ると、副船長の忍耐の緒も、とうとう切れたのだろう。



「けけっ、ムリしやがるから」
「ありゃーかなりキてるな」
「お頭もわざと見せつけるんだから、タチ悪いですよね」
「ま、副船長も甘過ぎんだ、自業自得ってんだな」
「賭けるか。どの程度のお仕置きになるか」

 余裕の幹部連中は、好き放題言っている。



 その中で一人、ヤサグレているヤソップはつくづく貧乏性なのだろう。


 ったく!昔はあんなに可愛かったのに。
 シャンクスはともかく、副船長は。

 ぶつぶつ言いつつ、
けれど昔の方が良かったとは決して言わないヤソップだった。
 彼らは彼らなりに年を重ね、現在の在りようにいたったのだ。
彼らの《今》や《今まで》を否定することはできない。
 それは、その《時》を、傍らにあって共に過ごしてきたヤソップの矜持であったが……





―――それは、身を誤るもとだと、誰か教えてるべきかもしれない……










2003.1.31



☆ 「汀にて」のその後編
 私の個人的苛々を反映して、かなーりシャンクス、性悪になってます。
うーん、さわやかじゃないなぁ。
で、やっぱりヤソップ父さんがびんぼーくじを引いております。


壁紙は「Studio Blue Moon」様からいただきました。。

右上の「×」を押して、お帰りください。