――響――
      


    



「猫のように」とよく言うが、
本当にシャンクスの振る舞いは猫に似ている。
 ベン・ベックマンはしみじみ思う。
副船長として一番、彼の身近にいて、
なんだか猫科の獣の傍にいるような気分に駆られることが多くて。




「ストレッチ」と称して、カッツェの身繕いを真似していたのには、
さすがに呆れたが…
「だって、効き目ありそうじゃん」
 当のシャンクスは、けろりとして言うが、
あまりそんな様を外部に晒してほしくはない。
と言うのは、ベンの本音であるとともに、赤髪海賊団の総意でもある。


「そうさせないよう、あんたがいるんだろ」
 怖い者知らずのルゥなどは、にやにやとベンを刺激する。
「そんなこと言ってもな」
 取り持つのは、苦労人のヤソップだ。
「アレを管理しようなんて、土台無理な話だろうが」







 シャンクスは、本当に猫に似ている。
 絶対に害されない自信に満ちた若猫のように、
己の弱みを平気で見せつける。
それがどんなに男たちを引きつけるか――



「自覚してやってるなら、傾城くらいにはなれるんだがな」
 そう言ってベンに睨まれたのも、ヤソップではある。
「まぁ、自覚がないからこそ、強烈ってことはあるからな」
 シャンクスに“誑かされて妻子を捨てた”男の言には重みがあった。
また、それにうんうんと頷く連中の多さときたら…
さすがのベンも、彼らを一掃しようなどとは思わなかったほどだ。



 今も――シャンクスは無防備に喉元を晒し、
ベンに向かってにぃと笑ってみせる。
反らされた喉は、喉仏のうねりに添って、上下する。
 ベンは、シャンクスの胸元に差し入れた手をそっと首へと滑らせた。
首から喉元へ。
そして、そこでぴたっと止まると、シャンクスの喉の震えが手に伝わってくる。
まるっきり、撫でられて喉を鳴らす猫だ。

「そんなに気を抜いてていいのか」
「このまま、ほんの少し力を込めれば、あんたを殺すことだってできるのに」
 それは少しばかり本気で、けれど、答は、全開の笑顔だった。




 お前にゃ俺は殺せないよ。

 だろ?



 畳み込まれ、擦りよられては……
「ああ」と答える以外、ベンに何ができるだろう。
いつものようにはだけられたままのシャツの合わせから手を入れ、
わざとシャツの下で蠢かせる。

優しい抱擁が熱いものになっていくのに
時間はかからなかった。
さわさわと動くベンの指に身を任せ、シャンクスは繰り返す。



 お前にゃ俺は殺せないよ。



……お前にだけは殺されてやらない。
他の誰に殺されることがあってもいい――
ヤソップだって、ルゥだって、ボウシにだって、もちろんミホークだっていいさ。
ルフィなら御の字だ。




 けど、お前はだめだ。


 俺を殺したらお前、生涯でただ一つ、
望んだものを自分の手で毀すことになっちまう。
それだけはさせらんない。


 そうだな、
お前が俺より大事なもん、てやつを見つけたら……



――――ぶんっと頭を振る。


 そん時ゃ、俺が先にお前を殺してやるよ。
 お前は、最期まで俺の副船長だ。





 シャンクスは、本当に猫に似ている。
 何にも執着しないようでいて、
いったん掌中にしたものは決して手放さない。手放す必要もない。
 子猫を取られそうになると、噛み殺してしまう母猫のように。
いや、そもそも決して離れていかないものを、手放すことなどあり得ない。
 彼は、ただ、そこにいる――だけだ。




 シャンクスは、本当に猫に似ている。










2002.11.24



☆ ベンとシャンクスそれぞれの想いの形は
 とても違うと思います。
 では、どう違うのか…の追求は、
 えっとーー今後の課題ということで〜


壁紙は「トリスの市場」様からいただきました。

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