南天燭

  

それはいつのことだか……
イーストブルーのとある港に停泊していたときのお話



なーなー、こんなもん貰っちゃったーー
……いつにもまして騒々しいご帰還だ。

あの音からして、あと2分もしないうちに――
訂正。30秒もしないうちにだった。
シャンクスは、俺の部屋のドアを蹴り破りそうな勢いで開けて突進してきた。
そのまま俺の腹の上に乗っかってくる。
少々行儀悪く、ベットに寝そべって本を読んでいたもので。



なーベンちゃん、これ何ー?
シャンクスの右手がつまんで、ぴらぴらさせているモノ――
小さくてまん丸い赤い実。同じように小さい緑色の葉っぱ。

そりゃ、南天燭だ。
なんてんしょく?
ああ、南天竹とも言うがな。
メギ科とされてるがな。本来ナンテン科で、一属一種の植物だ。
イースト・ブルーの辺りにはたくさん生えてる。

ふうん、そーゆー名前なんだ。

――ああ、で、誰に貰ったんだ。
ん、花屋のおばさん。
は?

きれいな赤だけど見たことない実だし、
おまえなら知ってるかなーと思って見てたら、くれた。
「兄ちゃんも災難だったんだねー。難を払いな」って。
……おい、シャンクス。



べっつに俺、くれなんて言わなかったぞーー
分かってる……おばさんとやらが、何でくれたのかもな。
えー、なんでなんで?

南天燭の「なんてん」という音は、
「難天(なんてん)」に通じるだろ?
「なんをはなれて吉句(よしく)てんずる」ということで
厄災払いを祈って飾るんだよ。特に新しい年を迎えるときは。
そのおばさんとやらは
災難にあったあんたのためを思ってくれたんだな。


別に災難じゃねーんだけど。

……腕1本落としてそう言えるのは、あんたくらいだ。
確かに、あんたにはいらないだろうな。

うん、いらねー。でも、ま、きれいだから、いっか。
あ、それともおまえにやろうか?

……お心遣いはありがたいが、俺にもいらんな。

えー、なんでなんでなんでー?

連呼すんじゃない。ガキか、あんたは。



それは難を避けるためのもんだろ。あんたを避けていいのか?
1秒、2秒……

ベンーっ!!!
ははっ、ようやく気が付いたか。


おっと、人の腹の上で跳ねるんじゃない。内臓がいかれるだろ。
傷ついた。メチャ傷ついた。
はいはい、――いいじゃないか。
そんなあんたがいいって人間がここに一人。
この船には、まだまだわんさかいるぞ。

俺は俺たちは「難」をこそ希むんだ。あんたが難ならな。
どんな平和もどんな栄華も、あんたという災厄の耀きにはかないはしない。
それに――



それに?なんだよ、ベン。

シャンクス、南天の花言葉を知ってるか?
俺がンなもん知ってるわけないじゃん。

そうだな。

あー、なんだよ。その笑いはー。ムカつく。
笑ってないで、教えろよ。

ああ、教えてやるよ。耳貸せ。
手招きすると、シャンクスはあっさり耳を寄せてきた。
やれやれ、好奇心は猫をも殺すと言うが……

俺はシャンクスの背に回した腕に力を入れ
耳元で囁いた。

「幸せ」
――そして「私の愛は増すばかり」

あっはぁ〜シャンクス。頭突きは止せ頭突きは。





シャンクス心の声


うーむかつく。ベンのやろー。
あいつがンなこと言うなんて、思わなかったから
びっくりしちまったじゃないか。
くそっ。俺様ともあろー者が。
俺様を脅かすなんざ、ベンのくせして生意気だぞ。
それも動けないようにして耳元で言いやがって。
うー、どうしてくれよう。


2002.1.19

トップの南天の写真は、Botanical Garden(植物園へようこそ!)様からいただきました。



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