詠懐詩

夜中()ぬる(あた)わず 起坐して鳴琴(めいきん)を弾ず。 

薄帷(はくい)に明月()り 清風我が襟を吹く。

孤鴻外野に(さけ)び 翔鳥北林に鳴く。

徘徊()た何をか見る 憂思して独り心を傷ましむ。


        (大   意)

夜中になっても寝つかれず、

起きだして坐り、琴をつま弾いてみる。

うすい帷に明るい月が照り、涼しい風が襟もとを吹く。

外へ出ると、群れから離れた(おおとり)が野原で叫び声をあげ、

空高く舞う鳥の群れが北の森で鳴きさわいでいる。

こうしてあてどもなく歩き回って、いったい何を見るのか。

ただ憂いに沈んで、心を苦しめるばかりだ。

(語 意)

詠懐 胸中のひめられた思いをうたうこと。

鳴琴 琴

孤鴻 群れから離れた鴻。鴻は大型の雁。

夜中不能寝 起坐弾鳴琴 薄帷鑑明月 清風吹我襟

 孤鴻号外野 翔鳥鳴北林 徘徊将何見 憂思独傷心