高知音楽界回顧
09年の高知のクラシック音楽界は、ファンにとっては例年になく淋しいものであった。オーケストラの来演はなかったし、ここ数年続いたオペラの来演もなかったのである。
高知のクラシックファンがどれほどいるか統計を見たことはないが、人によっては2千人ほどであろうという。30万人都市にしてはあまりに少なく、各種音楽団体の努力にもかかわらず増えないようなのである。そのために、音楽会はよほど名前の知られたアーティストでなければ空席が目立つことになる。100人以上の編成になるオーケストラやオペラでは、その本拠地から遠い高知で公演をするには運送・旅費交通費など経費がかさみ、多くの空席があれば赤字であろうことは容易に察しがつくのである。
そのため、高知に、オーケストラが来るのはせいぜい年に1回程度であった。09年にはそれさえもなかったのである。それで、高知にはシンフォニーの名曲を聴いたことがない人が結構いることになる。コンサートには時々顔を出す知人で、運命(ベートーヴェン)を聞いたことがないと言う人がいて、大阪にでかけて聞いて感動したという。
高知では、この10年、年末の第九の他のベートーヴェンの交響曲は、7番が演奏されたことがあるが、運命はもちろん英雄も田園も演奏されていない。チャイコフスキーの悲愴、ドボルザークの新世界などポピュラーな名曲を聴く機会はこの10年なかったのである(高知交響楽団は除く)。
クラシックを好むようになるのは、多くは中学から大学までの10年間ぐらいの期間である。その年代の若い人が、シンフォニーの名曲を聞いてクラシックに興味を持つようになる、高知はその機会が少ないのである。
もちろん、シンフォニー以外のピアノやバイオリンなど器楽のコンサートは、年間にいくつかあったので、これを通じてクラシックに引かれてゆく人はいるだろう。しかし、シンフォニーの圧倒的なボリュウムは、ピアノやバイオリンと異なり、余程の装置でも家庭では到底再現できないから、演奏会を待ち望むことになるのである。
昨年NHK音楽祭にシンシナティ交響楽団がきていた。シンシナティは、オハイオ州のオハイオ川の中流にある町で、丁度高知市ぐらいの感じの町である。そこにプロのオーケストラが存在するというのは、驚きであった。もっともこの町には、シンシナティレッズという大リーグのティームが本拠を置いているから、高知市よりもう少し大きいかもしれないが、デパートなども大丸と変わらない程度の、静かな田舎町という感じなのである。
日本でも、金沢や群馬とか山形交響楽団など100万人都市以外の地方都市の楽団の名前を聞くようになった。多くの音楽ファンが居て初めて運営が成り立つのであるが、時にはFM放送やテレビで放送されることがある。アマチュアレベルの演奏では、取り上げてもらえないから、地元のファンが育てているのであろう。同じ地方の都市でも、はるかに多い音楽ファンがいるのだろうと思われるのである。
高知のファンは、少ないとは言え、熱心な人は、高知で聞けないから県外に演奏会を聞きにでかける。普段は、レコードやCD・DVDで、一流の演奏を繰り返し聞き込んでいるから、耳は肥えているのである。高知在住の演奏者がこれら熱心なファンの耳に共感を呼ぶ演奏をして期待に応えるようであれば、ファンも増えるであろう。地元演奏家のそうした演奏に触れることが少ないだけに、今後の研鑽努力と奮起が望まれるのである。