稀代の詐欺師
振り込め詐欺、俺おれ詐欺、円天詐欺などここ数年詐欺事件は枚挙にいとまがない。被害金額は数百億円にのぼり、まだ続いている。米国では、650億ドル(=6兆5千億円 1$100円換算)という巨額の詐欺事件が発覚した。米国でも史上最高額の詐欺事件という。
これは、バ−ナ−ド・マドフという70歳の、証券界では名を知られた男(NASD 全国証券業協会の会長も務めた。)が、詐欺容疑(他に、マネ−ロンダリング、偽証の容疑)で逮捕されて明かになった。若い時は、海浜の救助隊員で、土地用スプリンクラ−の会社を経営して資金を蓄えた後、1960年にマドフ投資証券会社を設立して、証券界に進出したという。
投資資金の集め方は、ネズミ講方式であった。投資者には、一桁の配当を約束して堅実であると信用させ、時には特別に数10%の高配当を示して投資者を誘った。有名人はもとより、名のある機関投資家、慈善団体、大学も名を連ね、香港など海外の機関投資家や日本の証券会社も含まれていた。その被害者総数は、1万3千の個人・団体に及ぶ。1980年代からウオ−ル街では、注目される投資証券会社であったという。
ネズミ講方式で集めた総額は6兆5千億円だったが、昨年12月に逮捕された後、調査によって明らかになった資金残高は、1千億円強程度で、夫人名義での不動産や動産が100億円弱あるだけだったという。6兆5千億円内外の資金がどのように消えたか、いずれ明らかにされるであろうが、配当として還元された金額があるにしても、史上最高の詐欺事件であることは間違いない。因みに、米国でのマドフの刑は、11の罪状で150年の禁固刑になるという。
投資者は深刻で、1千億円ほど損したファンドマネ−ジャ−は自殺に追い込まれ、弁護士で大方の財産を失った人がTVのインタビュ−で老後を働き続けなければならないと嘆くなど影響は大きい。もっとも、機関投資家の中には、マドフに会って、その運営方針などを詳細に聞いた上で、投資を取りやめて難を逃れたケ−スもある。
米国では、証券会社に対してSEC(証券取引委員会)や自主規制機関などの検査がある。これを、ねつ造した書類や取引記録でくぐり抜けて20数年もの間露見しなかったから、被害額が大きくなった。SECなどへの批判もあるし、被害が巨額であるから被害者への救済議論もある。この事件にも、「うまい話には乗るな」という古い警句が生きているのである。
証券投資は、金融派生商品(デリバティブ)など分かりにくい商品がウオ−ル街から発信されて、今回の金融危機の引き金になった。これによる、株価と為替変動がもたらす個人資産1千3百兆円といわれる日本人への影響も少なくない。この10数年間預金金利は0ベ−スで推移したから、別の金利水準の高いものに投資が向いた結果であった。
預金金利が4%ほどあれば、年間50兆円ほどの金利が付き、消費に回って経済活性化の基盤になっていたであろう。銀行は低金利によって利益を上げてきたので政府の銀行救済目的は果たされたかも知れないが、その利益も今回の金融危機でかなりを失った。一方、低金利で生き延びた一般企業も、5%程度の金利も払えないではいずれ倒産する運命にある。
それよりも、4%程度の預金金利が生み出す年間50兆円ほどが経済に貢献する大きさを考えると、政府・日銀の取ってきた長期の低金利政策には問題があった。特に低金利の預金から高金利の商品に移行して、今回の金融危機に遭遇して損失を被った膨大な金額を見ると、政策の如何で被害を受けるのは何時の時代も国民ということになるのである。
注)マドフ事件の詳細は、NYタイムス、Wポスト両紙の電子版記事を参照した。