戦後レジーム

 世界史では、フランス革命前の旧体制をアンシャン・レジームと言った。英語では、かなり古い時代、ギリシャ、ローマ時代の古代を意味している。レジームは、体制という単語に過ぎないが、第2次大戦後の風潮は、まさに戦後の風潮である。これはアプレゲールといった。

阿部政権のスローガンに、戦後レジームからの脱却というのがある。戦後レジームというのは、前述したアンシャン・レジームやアプレゲールのように、認知された言葉ではない。単に戦後体制を意味しているようだが、戦後の何を、どこを指しているかは全く定かではないのである。つまり、そのどこから脱却するかが明確になっていないから、物議を醸すことになる。

戦後レジームとは、戦前レジームの対極にある言葉である。戦前のレジームは天皇制、軍国主義に代表された。もちろん思想言論の自由は無く、戦時統制経済であり、軍事優先であった。これに対する戦後レジームは、思想言論の自由が保証され、軍事より経済を優先し、政治活動も自由になった。この戦前と戦後の両体制を比較して、どちらの体制をもって良しとするかは、論をまたないであろう。     

しかし阿部首相は、戦後レジームからの脱却と言っている。まさか脱却して戦前の体制へ戻るのでは無かろう。それでも、戦後の体制をすべて否定するように聞こえるから、こうした言い方は、適当ではないのである。政治が問題を多岐にわたって抱えるとき、簡単にキャッチフレーズで表わそうとしてもむりなのだ。政治家は、コピーライターになる必要はないのである。

説明責任を果たすとは、国民の誰もが理解できる言葉で、内容を正しく理解させることである。

小泉政権下での施政方針は、「骨太の方針」で示された。中身はともかく、自らの方針を骨太と形容する無神経ぶりにあきれた人もいるだろう。骨太かどうかは読んだ人が評価するものであり、まとめた人がそう言うのを、恥知らずという感覚で見ていた人も多い。言葉を大切にする人なら、こうした言葉は用いないと思うが、政治家は選良として、使う用語に乱れのないように気をつけて欲しいものである。