愛媛の銭湯探訪について


銭湯めぐりとそのレポートをはじめたきっかけ


 平成6年末に、私は、ふとしたきっかけから松山市の銭湯巡りをはじめた。それは、半年の松山出向であった。当初は勤務時間外は中予・東予の山に登り、住居が砥部町だったので天気の悪い日には砥部焼きの実習等を計画していた。しかしその矢先、左手を丸のこで大けがし、山とも陶土とも縁を切らねばならなくなってしまったので、コンピュータやアマチュア無線にいそしんでいた。
 私は住宅のユニットバスは窮屈なので、風呂は近くの砥部町の湯砥館に通っていた。そのうち、せっかくだからということで、松山の銭湯をいろいろまわってみようと思いついたのである。多くの銭湯を巡るうち、その独特の庶民文化に興味を持ち始めた。そして、松山でも銭湯が急速になくなっている現実をみるにつけ、その文化と変化を自分なりに考えてみたいと思うようになり、各銭湯の簡単なメモを残すようにした。そのことを知った銭湯好きの仲間から、「まとめて冊子にしてくれよ!」と、強い要望があり、早速メモから訪問記録を起こして、平成7年夏に左の様な「道後平野の公衆浴場探訪」を30部作成したのだった。
 この冊子は、このとき私が調べた範囲のすべての松山市・伊予市・松前町・砥部町の街の銭湯と温泉浴場の訪問記で、知人やそのことを知って連絡のあった方に無料で差し上げた。その後、伝え聞いた地域の文化を調べている人にも反響があり、その伝で庶民文化の研究家の町田忍氏をはじめ、様々な方との交流や指導を受けるきっかけともなった。右の写真は、保内町の清水湯で町田氏が講師となり銭湯の番台をステージとして講演会を開催したときの記念撮影である。中央後ろで冊子を持っているのが私、その前が町田氏である。

 多くの方からさらに広い範囲の銭湯や温泉浴場を調べてほしいとの強い要望もあって、愛媛県全体の公衆浴場についての研究を開始した。そしてそのレポートを集めて、第二段である「愛媛県の公衆浴場探訪」を企画したが、平成8年にホームページを立ち上げようとも思っていたので、いっそのことそのHPの目玉としようと思い立った。そして、リストのページにある200ほどの銭湯と温泉浴場を探しだし、暇を見つけては訪問しており一応当時の県内のほとんどの公衆浴場の訪問をすることとなったのである。

銭湯めぐりのページから広がる銭湯研究
 マイナーな銭湯はその所在を調べるだけでも大変で、タウンページなどに載っていないものは、煙突を探して街を歩くわけだ。(組合のリストも参考にするが)。そのうち銭湯が残っているような街自体が好きになり、その風土を味わいながら県内の各地を楽しく歩き回るようになった。ホームページに公衆浴場の訪問記が充実してくると、今度は日本各地からの問い合わせのメールが舞い込むようになってきた。特に経営していてHPをもっている銭湯の経営者などとも知り合い、日本の銭湯メーリングリストにも参加してどんどん交流の輪が広がり、そうして知識や考察も深まってきたと思う。

 愛媛県のほぼ全ての公衆浴場を訪問した平成10年には、このホームページをみた愛媛の民放放送の南海放送さんからのオファーが舞い込んだ。当初は、毎日一つ一つ特徴ある銭湯を紹介する番組を企画していたが、私が愛媛の最西端に住むサラリーマンで無理があるようなので、特集を組んで一度に放送することとなった。私の仕事は職務専念の義務の制約のある教員であったが、所属の教育長からのOKももらって番組製作が始まった。この企画は南海放送の大河内アナ(写真左)に任されいろいろと内容を詰めていき、特徴のある銭湯だけでなく、私が強く望んだ公衆浴場の現状と課題についても触れる内容となった。実質7分の番組だが、丸2日のロケで今治市から西予市まで撮影した。当時私自身もノンリニア編集に取りかかっていたころで番組作りや編集についてかなり学ぶことがあった。その番組がどの程度愛媛の銭湯文化を深く伝えられたかは分からないが、担当の大河内アナも台詞一言一言にまで細かく丁寧に詰めており、私にとっては学ぶことが多かった。そしてさらにこれを観た方々からいろんな情報が寄せられることとなった。

 そもそも私の銭湯の研究は、山登りができないという逆境から発生した趣味であった。その銭湯研究も山登りで旅行するので日本全域まで広がってきた。さすがに日本の銭湯調査までは考えていない。が、この銭湯研究のうんちくはどこへ行っても通じるのである。特に銭湯では京都がすばらしい。さらに温泉は私の家からすぐに行ける大分へと広がっている。別府は各地域の公民館が運営する温泉の銭湯を持つすごい地域なのである。結局、別府温泉道の「名人」にもなり、今度は九州温泉道にも挑戦している。さらに山登りも日本から韓国、台湾中国とアジアに広がってくると銭湯や温泉の文化へのアプローチも拡大しグローバルになってきた。その反面、愛媛県の銭湯探訪のHPの更新が少ないことは厳しい指摘にさらされている。ここまで公衆浴場研究が広がってしまうともう趣味を越えてしまった。
 銭湯関係のHPを見ると愛媛県関係はこの私のつくった古い「愛媛の公衆浴場探訪」を基礎データとしていただいているものが多い。その必要性と多方面の趣味や研究で手一杯であるというジレンマの中で悩んでいたが、平成26年度からは大きな決断をして時間にゆとりをつくるようにした。また、自分のネット環境も整理してHPのプロバイダも19年ぶりに変更したのでURLも変わった。この世で最も愛媛の公衆浴場のデータを持っている?自分の立場をしっかり認識して、今後、公衆浴場の情報も再調査し、内容を充実させていきたいと思っている。これをみている皆さんも、情報の提供に協力お願いします。