大石湯  宇和島市 賀古1-1-6

営業時間:15:00〜21:30 休日は月曜日

 宇和島の街は、他の城下町と同様に細い道路でよく似た町並みが連なり、特に城の南東部は何度行っても迷ってしまいそうになる。宇和島銀天街のアーケードぬけ、どんどん南東に数百m進み、右手に社会保険病院を見ながらもう少し上って右に曲がると、視界がパッと開け、この銭湯が見える。この銭湯はたっぷりと敷地を持ち、白砂利を敷き詰めた広い駐車場さえもっている。とは言っても銭湯駐車場は数台止められる前だけで、右の広い駐車場は他の所有であるという表示がある。
 この銭湯の建物は写真のように白を基調とした大きな建物で、ピンクの大きなアクセントの入った恥ずかしくなるほどの明るい色とモダンな造りで、この地域では異彩を放っている。一般には建物の後ろにあるボイラー室も前にあり、建物の中にすっぽりと収まっているので、煙突も建物からいきなりにょきっと出ている。仕事の効率は良さそうだが、夏場は暑そうな燃焼室である。
 建物の写真は数年前なのでただの壁になっているが、建物の正面には写真のような城南中学校美術部の抽象画が貼ってある。この抽象画は時間をテーマにしたもので、絵としての完成度は低いが初々しさのと若い躍動感が感じられる。中学校の文化祭に展示して終わるよりは、銭湯の正面にあって、多くの人に観てもらうというのはまさにグッドアイデアである。願わくは、浴室に地域性の高い風景画など描いていただければ良いのだが、湿気の多い浴室に耐える大きな構図のペンキ画はプロでも難しい部類の作品となるので、中学生おろか高校の美術部でも無理なのかも知れない。また、この銭湯の入り口ののれんは、写真のように宇和島の「牛鬼」をデザイン化したオリジナルのもので、小さいけれどきわめて優れたデザインのように思われる。にもかかわらず、さりげなく小さなのれんに使っているだけ?なのが心憎い。

 入るとロビーになっていて正面にカウンター風の番台がある。番台のガラス張りのテーブルは、もちろん入浴用具も販売するが、なにやら子どものおもちゃの模型のようなものまで並んでいる。
 右が男湯の脱衣場である。この脱衣場も広々としていて、写真のような一般的なロッカー、いまだかつてどこでも使っているのを見たことのない寝式マッサージ機のほか、掲示板もあって、ポスターや不動産物件のチラシが貼ってあった。洗面施設も温泉浴場のようなゆったりしたものがあり、その隅に番台とやりとりをするための小さな窓がある。広い空間にはボート漕ぎ式トレーニング機や鉄アレイも置いてある。椅子はなかなか良いソファーがドンと置いてあるが、できれば脱衣のためにもベンチのような台でもある方がよい。古い銭湯のようでダサイと思われるのなら、以前置いていた様な籐の小さな腰掛け椅子が数脚用意されているほうが実用的だと思うのだが。トイレも落ち着いた感じのタイルが使われているきれいなものだった。浴室に向かおうとして、ふと見上げると写真のような額がかかっている。読んでみると、要するに清潔な銭湯ですよというお墨付きである。ちょっと前の、異常な清潔追求ブームのなごりである。そのためにアレルギー等の問題を多発した反省から、現在は微生物との共生を重視する方向へ向かっていることを思えば、やがて消えていく表示なのだろう。でも、その時期に育った菌に対してひ弱な世代がいる限り、有効な掲示であるとも考えられる。いずれ、「良性の菌がいる銭湯」がうける時代が来るかも知れない。

 浴室は、ウナギの寝床のように奥に細長い。天井はしきり上の中央が下がったプラで、サイドの窓から蒸気を逃がす方式である。床はグレーの大きなもの、壁は白基調で明るく、窓が低い位置にあるので、その前に青いアクリル版が設置されている。さらに奥壁もサウナの下なので、ゆっくりと眺める壁空間はないので、壁絵もない。のっぺりとしたしきり壁には、シールもののキャラクターがたくさん貼り付けてあった。私としてはちょっとがっかりだが、何もないよりはいいかも。
 宇和島形式のずらりと並んだ浴槽は、手前から打たせ湯、白湯、白湯(熱湯)、電気湯、薬湯、水風呂となっている。浴槽横壁は大理石で、上部は赤御影石が使われている。打たせ湯はしきりとカーテンがあり、ちょっと暗い。圧力は強力で良いが、深いのでできれば座れるように名ってっると良い。熱湯浴槽は右奥の下から熱湯が出ていて、一般白湯との間には手すりがある。電気湯はなかなか強力で私は入っていられなかった。薬湯は、日替わりで前回来たときと同様白濁した湯だった。バイブラもあるのでなかなか快適な浴槽である。その横に階段があって、そのもとに入浴用具を置く棚がある。古い緑の座椅子やたまごブランドの湯桶などがそこにはある。滑り止めとしてプラスチックの板の敷いてある階段を上るとサウナとなっている。遠赤の92℃で、加熱部に置いてある石もなにやらただの石ではないような気がする。

 入浴後、着替えてロビーに出た。平成8年に来たときには、老眼鏡まで用意されている机には雑誌など置いて、ゆったりくつろげる雰囲気であった。ところが今は、子どもの玩具でいっぱいで、足の踏み場もない様子である。実際何人かの子どもが遊んでいる。以前は、銭湯に関する切り抜きなど貼っていた壁にも、今では大きな、子どもの写真が掛けてある。主人の子ども好き、そして孫(子ども?)に対するご執着の様子があふれる空間である。狭くなったソファー周辺にも大人がいっぱいなので、自動販売機で買ったトマトジュースを隅で立って飲んで、早々に引き上げた。まあひょいと訪ねてくる客に訴えかけるものよりも、地元の住民の作品や思いが生きづいているという印象が残った。実用一点張りの多い宇和島の銭湯の中でも、さまざまな思い入れと個性をもって、これからも地域の社交の拠点としてがんばってほしいと思う銭湯である。