そして温泉ブームとともに県内でも各地に温泉浴場が竹の子のようにできる時代となった。噂によると大洲市はふるさと創生1億円を温泉開発につぎ込んだがうまくいかなかったようである。無駄遣いと糾弾された温泉開発の末にやっと見つかったのが少彦名神社の麓の泉源であった。少彦名神社といえば、私がよく訪れた心のふるさとの一つで、巨大な一の鳥居が大洲駅前にあるのにもかかわらず市民の認知度の低いパワースポットである。参籠殿は2014年の世界危機遺産に選定された。そして、その泉源の湯を利用して国民宿舎跡に出来たのがこの温泉浴場である。
駐車場も結構広く、この温泉浴場は写真では冨士山を背景にした古民家風(臥龍山荘をイメージしている)の小さな施設に見える。しかしは奥に温泉棟が二つありけっこう充実した設備がある。入口の横には無料の足湯があり、その看板を見ると遍路客を意識して作られているようでもある。はやりのバス遍路で明石寺と十夜ヶ橋の間、大洲南ICで降りればすぐのところにあるという立地を活かしたということなのだろうか。
中に入ると、右の奥に温泉のカウンターがあり、左はひまわりという名のレストカフェである。熊のぬいぐるみと大きなソフトクリームのライトが独特な雰囲気を醸し出している。自販機で入浴券を購入し靴箱のカギを渡すと脱衣所のロッカーのキーを渡される。いかにも手作りの案内掲示が各所にあり2階の温泉浴場に向かう。登り口に3つの家族風呂とはエレベーター、そして小さなゲームスペースがある。
2階に上がるとひさしのある男女湯の入口があってのれんが下がっている。左は広々とした冨士山の景色を堪能できる浴場、右は裏山の自然を鑑賞できる浴場であり定期的に男女湯が入れ替わる。どちらにも屋内に大浴場とサウナ、野外に露天風呂と歩行湯がある。2つの浴場の間に休憩室と冨士山の方を向いた展望テラスがある。また、岩盤浴と仮眠室、喫煙室などの設備もきっちりある。洗面室兼用の脱衣場も適度な広さで、土色のロッカーや味わいのあるベンチも落ち着いた暖色系の配色になっている。
浴室の広さも適切で、天井は高く、床は丸みのある御影石、側壁下部も御影石で地味だが開放感と暖かみのある落ち着いた浴室である。外に開けたガラス張りの窓を通して冨士山が正面に見える。 高い位置にある温泉浴場だということもあり、この開放感あふれる空間設計は他の温泉浴場がまねできない贅沢なものである。左の浴室は広々とした冨士山と広い空、右の浴室ではもともと国民宿舎のものだった整備された味わい深い庭園の光景はすばらしい。 写真は右の露天風呂だが、このときは仕切りのよしずにからみつく色づき始めた蔦や紅葉などの木々、精一杯背伸びして咲いているつわの花など、ここで十分紅葉狩りが出来る感じだ。ちょっとミスマッチの歩行湯もそれはそれでいいかと思える贅沢な空間である。そしてよく見ると石のベンチなど様々な備品も良い素材を生かす加工がされていて安っぽさはない。とにかく建物にしても風景や自然を生かす露天風呂空間にしてもかなりハイレベルの完成度で、それを感じる多くの入浴客がコンスタントに利用している。
外に出て肱川を渡ってこの温泉浴場を観てみたのが左の写真である。この風景だけでも絵になりそうだが、すぐ下流は名勝臥龍苑と臥龍淵であり、手前の川原は鵜飼いといもたきのメイン会場である。すぐ下のお社は水天宮(ここを冠した花火大会も開かれる大洲のパワーポイント)で、これだけ大洲の良さが凝縮した最高の立地にこの温泉浴場があることに改めて気づいた。