嵯峨山温泉   久万高原町下畑野川乙1307 廃業

営業時間:10:00〜18:00 (冬季休業)

 伊予の遍路道の中でも最も印象的なのが古岩屋という岩峰群であろう。直瀬川の両岸にそびえる高さ60〜100mの円錐状の20ほどの礫岩峰は圧巻で岩壁の洞窟や渓流沿いに様々な仏やお堂が配置されている。古い案内図を見ると分かりやすいが、44番札所の大宝寺から45番札所岩屋寺へ下る途中にある国民宿舎古岩屋荘の手前、直瀬川を渡った小さな集落が嵯峨山である。四国遍路道でも最も山奥にあり多くのパワーポイントがあるこの地は、長く滞在し勤行・修行する遍路も多く、昔は嵯峨山にも旅館などもあって遍路客などで栄えたそうである。さらに嵯峨山には冷泉がありそれを湧かしてお接待とする温泉施浴施設もあった。時が流れ交通の便が良くなって遍路の形態が変わるとともに旅館がなくなった後も2軒ほど温泉だけを提供していた。

 冷鉱泉であるこの嵯峨山温泉は、(薪代だけで客が自分たちで沸かしていたとの情報もある)平成20年頃まで温泉を提供していたようである。しかし、保健所の指導があり営業が出来ない状態になってしまったとこの浴場の所有者から聞いた。写真のように今でも個人宅の浴場としては生き残り、写真のように煙突からは湯を沸かす煙がたなびく光景を見ることができる。近くの古岩屋荘でこの冷鉱泉を利用することができるのではあるが、このような民間信仰の歴史と文化に満ちた素朴で(田舎情緒と野趣という点でも)魅力あふれる温泉に浸かることができなくなったのはとても残念である。

 近年、四国遍路は巡礼の道として世界的に知られるようになりインバウンドの対象としてもメジャーになってきている。この施浴施設も何らかの形で見直され再開出来ることを私は祈っている。