この温泉は一部傾いたような演出もある近代的な建物で、入口付近は明るいガラス張りである。前庭は、芝生をすき間に植え込んだ煉瓦状の石タイルや、オブジェやバランスのよい樹木をあしらってあって、前衛的な中にも入りやすい表情をしている。入って右には親しみやすそうな食堂もある。入ってまず目にしたのは、懐かしい銭湯用の木札キーの靴入れである。カウンターの女の子は若いのに暖かく庶民的な対応で、貴重品を確認してくれた。ここのトレードマークは雲(ゆげ?)をデザインしたものらしいが、とてもよいデザインである。案内や注意・説明は細かいところまでこのマークの着いたパネルに書かれて、適度な位置に貼ってあり、厚かましさは感じない。しかし、入れ墨者拒否に関しては、各入口に大きなパネルが貼ってあり、この浴場の姿勢を表している。このパネルはデザインが良いので、そんなに違和感はないのだが、よく見るとそのパネルの入れ墨のデザインは、この浴場のトレードマークと区別ができないほどよく似ている。
脱衣場のロッカーも木製の親しみやすそうなものである。扉の下に磨りガラスがはめてあって、あいているロッカーが確認しやすい。扉の下には物置もあり機能的である。金属製のロッカーは気分的にもいやなものである。さらにここには、籐の脱衣かごも用意されている。でも鍵自体はちゃちで、創業当時、盗難事件が多くあったらしく、従業員は神経質になっているようだった。木のロッカーはとても良いのだがその木の材質はちょっと悪く、耐用年数は少ないように思えた。
浴室に入ると、目を見張るのは床や壁に敷き詰められた暖色の流紋岩である。多くの温泉浴場は御影石をつかっているからである。煉瓦質の流紋岩はその木目のような模様がきれいで暖かい色と優しい肌触りでとても好印象がもてる。でも、もろく汚れがとれにくいという欠点がある。だから、他にこの石を利用している竜王温泉でも壁の一部だけにしか使っていない。この温泉は、この石を浴槽はおろか外のオブジェにまで徹底して使いまくっている。露天風呂へのドアの下は少しけずれて見苦しいが、その長所から考えて私はこの石の起用に踏み切ったこの温泉の姿勢に好感がもてる。
浴槽は白湯、露天風呂、バイブラ、そして小さなミストサウナ、遠赤サウナとそつなく配置されている。そしてこの目玉は、露天風呂の隣にある、機能回復用の風呂である。これは、深さ1mくらいの1周15mの玉砂利のしかれた風呂内を歩くものである。入り口には身長120cm制限の警報機がある。
浴室の天井は斜面型だが、しきりの上に銭湯風の蒸気抜きが着いており、この温泉浴場が昔の銭湯の暖かみを意識したものであることがわかる。実際、家族連れが多く、のどかな雰囲気が漂っていてこの公衆浴場の意図は十分成功していると思われる。ちょっと高い湯銭(550円)も気にならないほどのできであるが、他の公衆浴場(鷹の子やユートピア)が同様のコンセプトで改装したら....。