古川温泉 湯楽     松山市古川町

  営業時間:06:00〜24:00  無休  湯銭400円

 この温泉は、椿神社の西、古川のショッピングセンターエリアの中にある20世紀末にできた比較的小さな温泉浴場である。このあたりは近年どんどん住宅が増え、高速道路、坊ちゃんスタジアムもできて松山の新しい文化拠点として発展している。しかし、このあたりにはほとんど公衆浴場はなく、家庭の小さな風呂に不満を持つ人にとって確かに立地的には十分商売になる位置にある。それにしても私はメールでの情報連絡ではじめて知ったのであるが、宣伝のほとんどない商売っ気のない温泉浴場であろうか。
 さて、そういうわけでさっそくこの温泉浴場に訪れたのではあるが、そのこじんまりした建物に合点がいった。建物こそ完全に独立した温泉浴場であるが、その規模は一般の銭湯程度で、このあたりの住民や客だけで十分商売になる大きさで、むしろ他からおしかけられると困るであろう。駐車場は60台とあるので、周りは駐車場だらけで建物の左右にある以外にも、兼用できるところがあるのだろう。
 のれんをくぐって明るいカウンター式の番台で湯銭を払う。脱衣場にはロッカー式のものが中心であるがちゃんと脱衣籠も用意されている。浴室も一般の銭湯程度の広さで、床は淡い赤御影石でなかなかおちついている。天井は田舎の家風の黒く太い梁がそのまま使われ、古い温泉宿でくつろいでいるような気分にさえなる。まあよく見るとその梁にとってつけたような照明や明るすぎる白木の板壁など不満もあるが、それほどのものではない。むしろタイルをやめて板壁にした好意的にもみれる。管理は難しいかも知れないが、うまく歴史を重ねれば温かくいい味わいの壁になっていくかも知れない。
 しかし、首を傾げるのが、露天風呂である。なかなか粋なガラス張りの入り口はいいのだが、露天風呂そのものは...。まあ浴槽はおきまりの自然石ではあるが、周りは狭い壁に囲まれ、天井のほんの一部にちょこっと空がのぞいている。露天風呂とは自然の広い空間を味わうものであるから、これでは何のための施設かわからない。作り物の観葉植物などもふくめ、何とかそれらしく演出しようと思ってもこの広さでは無理がある。壁に大きな自然の絵(写真)を描くとか、いっそ打たせ湯の浴室にしたらいいと思った。これは客のせいでもあるが、最近の温泉や宿はとってつけたような露天風呂を無理して作る傾向があるが、長い目で見ればこの投資は無駄になるような気がするのだが。よい露天風呂を味わったことのある客には客のことを考えた経営努力とは考えないと思えるからである。
 この温泉は、泉源の湯温は36℃の低張性弱アルカリ泉とあり、このあたりの温泉とかわらないようである。しかし、口に含んでみるとはっきりわかる食塩の味は、他にはないものである。下手な温泉より潮湯の効能を信じる私にとっては、この温泉はむしろ好ましい印象を得た。私はこの辺で飲むことも多いが、地元の人に聞くと昔は椿神社あたりまで海岸線が来ていたという。この温泉の塩化物イオンやナトリウムイオンの量が多いのもそのためだろうか。
 風呂を出て脱衣場のベンチでくつろいでいると、背後から「これのふた開けて!」と素っ裸の5歳くらいの少年が500mlのコーラを差し出した。このように温泉浴場で率直に見知らぬ子どもから何かを頼まれることは少ない。コーラを無心に飲む少年は様子を見ながら一般の銭湯にいるような気がした。客が近所の人に限られる街の銭湯では自然な光景であるからだ。小さな子どもに平気で多量のコーラを買い与える親には問題があるが、このくつろいだ雰囲気は得ようと思って得られるものではない。この湯楽では、職員の接客や脱靴場にさりげなく籐の腰掛けがおいてあったりするなど細やかな工夫の中に、家族的な温かいムードが感じられ、近くに住んでいる人はここに通うようになるだろうと思った。この湯楽は多くの客が押し掛けるような温泉浴場ではなく、まさに銭湯の良さを取り込んだ新しい形の公衆浴場であろう。また、温泉地にある共同浴場という感じさえする。
 さて、湯楽に入って心配になったのは、近くにある銭湯「長寿温泉」である。ちょっと行ってみたが、健在だったので一安心である。(平成13年4月)