道後温泉別館 椿の湯 (松山市 道後湯之町5-6 確認H12.8)

営業時間 7:00〜23:00 休日は不定

 いつでも観光客でにぎわっている道後温泉の本館からわずかに西、アーケードのはずれに市営の道後温泉の別館であるこの「椿湯」がある。週末や季節によって本館に入れないような状態になると、湯は同じだからこちらを利用するようにすすめられる。根性で本館の前で待つ客もいるが、この別館に多くの客が足を運ぶのである。ここは、重要文化財となり建物に制約のある本館と違って、どちらかといえばローマの公衆浴場をイメージした余裕のあるつくりをしている。建物の前には道後温泉の由来を書いたパネルや小さな日本庭園もある。見上げるように高くて大きい玄関を通り、280円のチケットを買って入る。本館のように2階の休憩所もあるが、私がいった時にはいつもサービス時間が終わっている。靴箱のカギをフロントで渡すとその靴箱の番号札を書いた紙をもらった。広い廊下を通って脱衣場に向かう。
 脱衣場は広く、トイレはここからも廊下側からもつながっている。この脱衣場からは中庭を眺められる。セルフサービスではあるが、湯茶も備え付けてあり、ゆっくりくつろげる配慮がなされている。ロッカーはスチールの10円ロッカーでたくさんある。
 浴室にはいって目立つのは、中央の正岡子規の句が刻んである大きな石柱である。そこから湯がわき出している。浴室はほとんど御影石でできていてこれらは本館の雰囲気とよく似ている。見上げると、高い天井近くの壁には大きな石材を活用した道後温泉の由来である白鷺の立体図がある。これはなかなか見応えのある装飾であるが、これに使われる岩石には各所に固定用の穴があいていてそにを利用して安全を図っている。湯だし口には、絶えず入ってきた人が腕や腰を当てていることで、温泉であることを改めて感じる。この椿の湯に来ている人は、優しそうな中年の紳士が多いように思える。しかし、石で囲まれており、建物の割に浴室が狭く、天井の高い構造のせいなのか、浴室には重たい窮屈な雰囲気があって、私はゆったり落ちついてつかってられなかった。シャワーの数も少なく洗い場としてはあまり効率のよい浴場ではないといえる。浴室を出て、着替えを済ませた私はあの靴箱の紙札がないことに気づいた。困ったことだと思いながら、フロントにそのことを告げると、落とし物として届いていると言って、おばさんは子どものようなあどけない笑顔で靴箱のカギを渡してくれた。
 大学生のころ近くに住む従兄弟と何度も通ったこの椿の湯も、どれから20年以上もたつと全くイメージが違って見える。聖徳太子ゆかりの地であることなど歴史的なことなどはあまり関心はないが、椿の湯という名の通り優しい花や季節の移り変わりをイメージして好かれるような銭湯であってほしいと個人的には思う。