旧国道11号線を市の中心に向かい、石手川を渡る前の交差点を右におれるとすぐの「日の出」のバス停から堤防を下ると、左にこの銭湯が見える。私は、国道11号線から、堤防沿いに7分ほど歩いて行った。
地味なモルタルの古い作りの銭湯で、よく見ないとどっちが男湯かもわからない。広い番台に座るやせた主人に湯銭を払い、脱衣場に上がる。脱衣場も浴室も広いが、おそらく人手が少ないのだろうか、きわめて雑然としている。床こそきれいにしてあるが、ロッカーなどの上は埃まみれである。また、年代物の古い器具などがそのまま置いてある。椅子のマッサージ機が2つ、ベッド式のマッサージ機が一つある。20円入れたら動くことになっている。その奥にある300Wのドライヤーも超旧式、ためしに20円を入れたらちゃんと作動した。ロッカーの上には、鉢植え(枯れかかっているものもある)が数鉢、大型の年代物の扇風機が一つ、そして放送用の古いスピーカーがある。浴室の入り口の左上にはお稲荷さんが祭ってある。ロッカーは4番を除いて34あり、右端は設計ミスなのかかなり小さい。
浴室に入ると、正面に五重塔と富士山、側面には鯉のタイル絵がある。入って左手すぐに小さな水風呂、中央の湯舟は5カ所から気泡が出ている。御影石の床と中央の浴槽の継ぎ目のモルタルは、いたるところにひびが入っていて、その古さを表している。湯出し口は、一見動物の頭のように見えるが、よく見ると石を組み合わせて作ってある。湯は熱めである。奥に電気風呂の跡があるが今はもの入れになっている。この銭湯には、側面の鯉の絵の前に長細いくみ湯用と思われる湯だめがある。無理をすれば横になって入れるくらいの大きさである。腰掛けも、小さい古いものである。女湯との境の壁の手前には棚があって、各種の置物や造草がたくさん並べてあり、濡れて渋く光っている。主人は神経質そうな人で、半分趣味で、開き直って営業しているように思えた。
平成9年になって何度か訪れているが、入り口に自転車がぎっしり置かれて入れないようにしてあるので、すでに休業か廃業になっていいるのかもしれないと思った。何度か訪ねていったが同じような様子であった。平成12年の夏、再び訪れたときに明かりが灯り人気が感じられたので、ドアを開けるともうとうに廃業して、今中を片づけているのだと言うことだった。脱衣場のしきりはなく、だいぶ整理されているので近々取り壊されるのかも知れない。この銭湯の廃業により、特異な湯桶用の湯だめという形態を持つ銭湯は、全てなくなってしまったことになる。