鹿島温泉(廃業)   松山市 此花町5-35

営業時間 13:30〜21:00 休日は土曜日であった

 平成11年9月、久しぶりに訪れてみると、この銭湯はそっくりなくなっており、駐車場となっていた。旧形式の施設の残る貴重な銭湯であっただけに、非常に残念なことである。以下の文は、平成8年2月に訪問したときの記録である。

 松山商業高校の東の細い路地に入って注意して見ると、豊田ビルに寄りそうようにこの銭湯の煙突が立っている。のれんをくぐって、開いたまま入り口から中に入ると、元気そうなおばさんが迎えてくれた。湯銭を払い、30円でシャンプーを買って、こぎれいな脱衣場に上がる。右手を見ると、漢数字で五十まで大きく番号が書かれているこじんまりした古い脱衣ロッカーには、まだ鍵がほとんどそろっている。脱衣かごがないので、このロッカーに脱いだものを押し込む。まわりにはドライヤーとマッサージ椅子、ヘルスメーターがあり、番台の前には飲み物の入ったクーラーもある。中央に小さなベンチと台、浴室の入り口近くには蛇口のない流しがぽつんとある。天井にはプロペラ扇風機があるが、普通の扇風機もある。
 浴室にはいると、まず目につくのは左手の大きな浴槽である。深めの湯が張ってあり中央から湯がわき出ている。岩でできた湯の取り出し口もあり、以前来たときには湯は出ていなかったが、今回は熱湯が出ていた。その奥には電気風呂もあるが湯が入っていない。なんと行ってもここの特徴は中央にあるくみ湯用の長細い湯だめである。右奥の浅い湯舟には、バスクリン風の入浴剤が入っていた。左右にあるカランもピストン式の年代物で、もちろんシャワーもない。床の薄緑色のタイルも古く、いたるところにひびが走っているが、ていねいにホワイトモルタルで修繕してある。奥の壁にあるタイル絵は「裸婦と天使」である。女湯は風車の絵のようである。天井は板張りのドーム形で、天井の中央に蒸気抜きがある。この蒸気抜きの天井はガラス張りなので、日のある間は十分明るい。
 客は私の他には学生が二人いた。裏の松商の下宿生なのかもしれない。帰りに番台のおばさんから、すばらしい笑顔で「ありがとう」の言葉をかけてもらった。ビルに押しつぶされそうなこのような銭湯と、人間同士のふれあいが、時代に飲み込まれずに残っていってほしいと願ってこの銭湯を後にした。(H8.2)