マーレ・グラッシア大三島 
今治市大三島町宮浦5902

営業時間:10:00〜20:30 休日は水曜日(2月第1水〜金)

 ここは、大三島町の大山祇神社の近く宮浦に平成13年4月にできた町営の海水温浴施設である。私は毎年旧正月に大山祇神社に参詣していたのであるが、この年に限り、忙しくて4月にずれ込んでしまった。本殿参詣後、いつものように生木の門をくぐり阿弥陀堂に参り、安神山山頂を拝して帰ろうとすると、ふと道沿いに「塩湯」の看板が...。
 宮浦港の南を道しるべに沿って、くねくねと大三島中学校の横を通ると、ひっそりとした砂浜が続く台海岸に出る。その海岸線に鉄筋平屋約1800平方mのこの浴場が「伯方の塩」で有名な伯方塩業の工場と並んで建っていた。そこまでの道は決して良いとは言えないが、駐車場はたっぷりとあり、バスさえ数台駐車できるスペースもある。
 玄関に入り左に曲がったところにカウンターがあってそこで500円の湯銭を払う。廊下をすこし歩いて男湯に入る。この施設の名前「マーレ・グラッシア」とは、「海の(イタリア語)」「恵み(スペイン語)」と言う意味である。気負う気持ちもわからないではないが地方の施設に多いこのような造語には最近うんざりしている。未だに「大三島の塩湯のある温泉」などと言う人が多く、誰もこの名を覚えている人は私の近くにはいない。特に公衆浴場などは、地方色豊かな親しみよい名の方がよいと思う。
 脱衣場は特にかわったものではないが、潮湯への期待は膨らむ。私はかねてより「温泉より潮湯!」を主張しており、その効果は十分に体得しているつもりだ。その効果は医学的にも海洋療法(タラソテラピー)として認められており、ここはそれを前面に押し出したはじめての潮湯中心の公営浴場なのである。ここの海水風呂は、隣接する伯方塩業大三島工場が、沖合約500mから取ってきた海水を加熱しているという。天然の海水に含まれるイオン等の溶解物質は、人体の体液の組成とも似ており、羊水のように優しく人の皮膚に作用し体内外の新陳代謝の促進や美容などの効果があるとされるのである。ただ、瀬戸内海の海の水にはちょっと不安もある。いっそ「伯方の塩」同様、きれいで安全な海外の塩を使った方が...とも思う。
 浴室は広いが、ほとんどがこの地方でとれる御影石ではなく、床も浴槽も輸入物の赤御影が使われているようである。ベージュの側壁のタイルも落ち着いた温かい雰囲気を醸し出している。潮湯の浴槽は広く、伊予市や北条、八幡浜にある潮湯銭湯(廃業)より塩分が濃いように思われた。中央の青石の湯出し口もなかなかよい。白湯の浴槽やジェットバスの他、はやりのトロン温泉(平成15年2月に廃止、イベント風呂に変更)なんかもあった。サウナは潮サウナと書いてあったが、どう見ても一般のサウナで売店でも塩が売られている様子もない。広い遠赤サウナで自然石風の側壁もいい印象だ。
外には露天風呂と打たせ湯、歩行用の三つの浴槽があった。打たせ湯は露天風呂と大きな岩で仕切られていて、湯は三筋落ちていた。しかしその落湯は広がっていてさらに風もあったので、使用感はあまりよくなかった。そのためか、現在は打たせ湯は廃止して寝湯に変更している。広い露天風呂は石組で周りは波形処理された板が敷かれている。湯は味のある石でできた蛙の大きな口からあふれている。露天風呂の正面は瀬戸内海が広がる。西向きなので、きれいな夕日を見ることもできるだろう。とはいっても御影石(おそらく大島石)の塀があって、湯に浸かって海は見えない。でも気持ちよく広がった青い空がすがすがしい。紅葉と椿、松(マキだったかも)などが植えられ、その下に咲くシャガが白い御影石をバックに控えめに自己主張していた。
 風呂から上がり、売店でお茶を買ってテレビでも見ようと思ったのだが、売店の係がいつまでたっても来ない。またその値段が中途半端なので、お金を置いていくわけにも行かず、馬鹿みたいに立って待つはめになった。なんかのんびりしている雰囲気の従業員は人は良さそうなのだが、単にさまざまな仕事を兼用しているのであろうか..。
 この施設は、しまなみ海道の新たな観光施設として、国が離島振興策で進めているコミュニティー・アイランド堆進事業などを活用して、約7億2千万円で作られ、初代の支配人は大林弘明氏である。くつろぐ場もゆったりしており、観光施設というより町民にとっては憩いの場として貴重な施設となるだろう。私は、毎年、旧正月に大山祇神社と安神山に参詣することにしている。今では八幡浜の潮湯もなくなったので、年一回とはいえ、この公衆浴場に浸かることは毎年の大きな楽しみである。(H16.9.28)