外観から想像して必要最小限銭湯とあまり期待せずに入口のドアを開いた。しかし、すぐにここがていねいに作られた古い形の味わいのある銭湯であり、銭湯業界に逆風の厳しい今でも精一杯営業努力をしている銭湯であることもすぐに分かった。温かい板張りの床に写真のように大きな文字の木製の鍵付きロッカー、Yamatoのアナログ体重計、配慮の仕切り。小さいながらもテレビもあり、エアコンはないものの仕切りの所に二つと壁にも1つトリプルの扇風機、冬場のためのファンヒーターもある。背の低いロッカーが二つも付け加えられていて50名以上が同時に使用でき、銭湯が必要だった昭和にはかなり繁盛したのだろうと想像することができる。
浴室もなかなか見応えがある。まずタイル張りの床と壁である。壁面は明るい白のタイルに上と下にアクセントの色タイルがていねいに並べられている。そして床は、大小色とりどりの小さなタイルを組み合わせて写真のように様々な模様やグラデーションを組み合わせた動的なタイル配置で壁面と対照的でおもしろい。そして外側の洗い場の上の壁面(愛媛の銭湯に多い灯台の図柄)と副浴槽の上(今治の銭湯に多い鯉の滝登りの絵柄)にタイル絵がある。洗い場にも色違いのタイルが使われ、しきりにある円い柱にもていねいにタイルが張られている。ちょっと色彩感覚は独特だがこの銭湯は真面目なタイル職人のていねいな仕事が存分に発揮されており、気持ちの良い浴場空間が演出されている。
中央のメインの白湯浴槽と奥に副浴槽のある愛媛に最も多い配置の浴室であるが、副浴室はすでに使用されていなかった。愛媛の副浴室は湯ノ花湯と電気湯が双璧だが、ここはその跡から電気湯だったと思われる。たくさんの洗い場のカランや鏡も往年の繁盛の様子が想像されるものである。天井を見上げれば大きな湯気抜き窓が開いており、浴室の防水蛍光灯も独特の形をしていているのもなかなか味わいがある。
この敷島湯は外観はともかく愛媛県の銭湯の典型的な特徴を残す良質な銭湯でもあり立地も良いので、銭湯愛好家にはお薦めの銭湯であると言える。しかしながら、このところ今治の駅前や郊外にさらに一般大衆をターゲットにした大規模な温泉浴場が林立している。ただでさえ自宅浴室の普及と経営者の高齢化で逆風の吹く街の銭湯だが、このことによりいっそう経営が難しい時代になってくると想像できる。今後のがんばりと地元住民の支えに期待したいのだが。 (平成24年冬入湯)