私は、平成10年5月この温泉浴場を訪れた。駐車場に車を停め、レストランの前を通って浴場の受付に向かった。訪れたのは夜であったのでレストランは閉まっていたが、通路沿いには愛媛の果物や野菜がずらりと並び、まるで八百屋のようだ。しかし、柑橘系の果物では有名な八西地域の私にとっては、ミカンの質はイマイチだと思った。
奥に温泉用フロントと八百屋のレジがある。そこに書いてあるように当時の入浴料金315円を支払い大浴場に向かう。脱衣場は、なぜか段があってスチールの脱衣ロッカーは奥の一番下がった所にあった。
浴室は決して広いとはいえないが、奥行きがあって手前から気泡湯、石の湯出しのあるメインの白湯、水風呂そして右は洗い場である。一番奥にサウナがあるようだ。側壁は緑を基調にしたタイルでガラス窓も含めて少し固い雰囲気が感じられた。
入浴後、外で野菜や果物をながめながらふとテレビを見ると、NHKがドラマにしたつげ 義春の「赤い花」をやっていた。「赤い花」は日本漫画界の名作であり、実写ドラマにするとどうなるのか知りたかったので、ソファーに腰を落ち着けて観ることにした。ちょうど見出したときは、まさに赤い花が川を流れる場面だったが、刑事ドラマのようでがっかりした。しかし、その中の台詞「男は山に...」という言葉が妙に頭に残った。 当時は週末はどっかの山に登っていたころだ。ここが石鎚山登山口の温泉地であることで「そういいえばこの連休は山に行けなかったのぉ。・・・・男は山か!」と外に出て闇に沈む南の石鎚山塊を眺めながら思った。
平成26年に久しぶりに探すと、もうこの石鎚温泉は跡形もなかった。どうも跡地はソーラー発電施設になっているようで、この写真のデイケア施設が目にとまった。というのもこの施設は石鎚温泉の隣にあってその湯を使っていたということである。結果として石鎚温泉の名を残す唯一の施設となっている。