湯之谷温泉   西条市湯之谷

営業時間:08:30〜21:30 無休 宿泊可

 国道11号線の石鎚温泉から少し東に行くと、山手(南)の方向にこの温泉が見える。そこへ行くための道は、田んぼのあぜ道で、わかりやすいがきわめて細く、車一台がやっと通れる。対向車がくるとバックも困難な道である。私が訪れたときには運良く対向車には出会わなかったが、温泉の前の20台ほど止めることができる駐車場はほぼいっぱいであった。
 でこの温泉は、江戸の後期に湯治のために利用した記録が残っているが、その後、洋風の温泉となりにぎわったが経理の失敗で倒産、昭和24年に今の温泉宿の元ができた。石鎚山の麓でもあり、四国霊場も近く、西条の愛好者も多いので、ここは常ににぎわっていると聞く。
 入り口には靴用のロッカーもあるが、遠慮なく下足が脱ぎ散らかしてある。中には、作業用の地下足袋などもあり、仕事の帰りによる人も多いのだろう。食堂の奥には宿泊施設もあって、浴衣を着た宿泊客もいる。フロントで湯銭300円を払い、左手の廊下に入っていく。男湯と女湯の間には番台の跡もある。
 脱衣場は、公園にあるようなベンチが3つ置いてあり、まあまあの広さではあるが、人がたくさんいてにぎやかであった。ロッカーも古い物で、カギをかける人は少ないようだ。自動販売機が2つどんとあり、天井にはファンが回っていている。
 脱衣場から入っていくと、浴室との間に部屋が一つある。故障して使えない浴槽が片隅に一つあるだけの部屋で、言ったに何に使われていたのか首を傾げる空間である。
 浴室にはいると、中央のひょうたん形の白湯浴槽が目に入る。しきりがあって、小さい方がぬるめであるが、この日は熱いと言って狭いぬるめの浴槽に浸かる人が多い。熱めの湯には腰から下だけ浸かっている人が多く、腕時計をしている人も何人かいる。互いに顔見知りが多いためか、大声の会話が弾む。ちょっと入り組んだところに水風呂があるのだが、そこに入るときなど「冷たい!」などと遠慮なく奇声を上げ、むしろやかましいくらいだ。他人に対する配慮などはほとんど見られず、静かにゆっくり湯に浸かりたい人には不向きな雰囲気である。まあこれがこの温泉の昔からの入り方なのだろう。「体を洗うときには使ってはいけない」すなわち、洗髪と水浴びだけの用途には使ってはいけないというシャワーを遠慮なく使っていた客は、「出の悪いシャワーじゃのォ。これなら300円は高いぞ。280円くらいにせんとのォ。」と叫んでいた。
天井はドーム形で黒っぽいタイルが敷き詰められている。その頂点に小さな蒸気抜きがある。各所に石灰のつららが下がっているが、あえてそのままにしているようである。奥にはサウナがあるが、そこはなかなか広く10人は座れそうであった。遠赤型加熱器で、90℃、その中で、酔った二人の大工が口論していた。「あの人はダメな大工じゃ。大工はベテランになったら自分で考えて仕事をせんとの。仕事の途中でうまく会わないのに気づくようではなさけない。・・・」等々である。
 脱衣場の上には大きな効能書きが書かれたパネルがある。旅行客がみて、温泉なのに泉源が常温に近いのにびっくりしていた。そして、ずらずらと書かれた成分から、こんなにたくさんの物が解けてるのだから、いい温泉なんだろうと結論づけていた。愛媛の温泉のほとんどが冷鉱泉であり、それほど特別な成分が含まれているわけではないことはあまり知られていないのだろうか。成分や効能書きの意味するものが読みとれる人はほとんどいないことを考えれば、無意味とも考えられるが、イメージ宣伝に弱い日本人のためには、成分・効能書きはその気になって利用する心的な効果のために重要なアイテムなのかも知れない。(平成11年10月8日)