銭湯の蒸気抜き  Ver. 0.9


 銭湯の湯舟にはふたをしないので、当然湯気がこもる。それを抜くためにもうけられている設備で、正式には何というのか知らないが、とりあえず蒸気抜きと呼ぶこととする。その外見は、右の写真のように浴室の屋根にちょこんとのったものが多く見られ、これが銭湯の建物の特徴ともなっている。この写真の銭湯は伊予三島の三島神社の裏手にある栄湯のものであるが、今は廃業しているが、外見からも素朴な街の銭湯の趣が感じ取れる。

 蒸気抜きの構造は、銭湯によっていろんなパターンがある。それぞれの浴室に申し訳程度にあるものや、天井の半分くらいの大きさの巨大な物があったり、屋根の上に独特の櫓を造っている芸術的なものなどもあり多彩だ。最近できた銭湯にはこの蒸気抜きはなく、天井を傾け、その最も高いところで換気扇を回して換気しているものが多い。。女湯との境(中央)を低くして両端を高くし、そこに窓をつくって蒸気を抜く構造の銭湯もある。
 南予の銭湯には格子や多数の横木が入ったり装飾があったりして、ひと工夫した蒸気抜きがみられる。でもこのあたりは毎日湿気にさらされ、痛みも早いと考えられる。その点でもこの構造も工夫の必要な部分なのである。左の写真は宇和町の馬場湯のもので、独特な天井の形で蒸気を集めるようになっている。
 左の写真は新居浜の新光温泉、右は廃業した北条市の金亀温泉のもので、きわめて素朴である。
 天井の材質も同様で、一面タイル張りのものもあるが、多くは白壁とパネル板にべったりとペンキ塗りで対応している。でもその条件からも、いずれはカビや壁の劣化を免れることはできない。私などは、天井のシミや汚れにも愛着を感じる方であるが、清潔好きの昨今の若者客を確保するにはほっておくわけにはいかない。
 ところが、立派な銭湯ほど天井は高く、その管理は想像を絶するものなのだろう。若い後継者がいないと思われる銭湯では、手の届くところは心を込めて丁寧に磨かれているが、危険な天井には手を加えていないことが多い。ちょっとした外から見ると小さな櫓のようなものがちょこんと乗っている蒸気抜きなどは、外観上ほほえましく感じられる。
 湯舟で体を伸ばすと天井が見える。冬場は蒸気が雲のように薄暗く高い天井で躍り蒸気抜きに吸い込まれていく。その効果はともかく、この蒸気抜きがあるのとないのとでは浴室の雰囲気が全く異なってしまう。