コミックのページ

 昭和30年台から(ゲーム機の普及する前の)昭和50年台に生まれた人は、漫画世代といえます。実際この時代は、少年少女漫画誌が繁栄し、後に内容の充実した青年漫画誌も続々生まれました。活字と画像では情報量が比較になりません。観たこともない世界を描くには、まさに最適な情報源です。特に時代考証のきっちりした漫画や外国ものは、活字とは比較にならないほど差があります。表情や背景をもうまく描く漫画家が多くなってくると、小説(TVドラマも)も読まなくなりました。
 ということで、漫画世代の私も漫画を多く所有しています。単行本のコレクションは、年現在、千五百冊くらいでしょうか。近年、BS2で「漫画夜話」なる番組があって、古今の漫画を改めて見直してみました。
 このページには、現在持っている漫画本の中で、ベストチョイスを50選びました。興味がある方は漫画本を読むときの参考にしてください。なお、本文中に書いた本は持っていますが、※がついた本は所有していません。   平成20年4月27日
コミック ベストチョイス 50

カムイ伝    1964〜 1部全21巻 外伝全20巻 2部22巻 白土三平
 言わずと知れた、江戸時代の人々の業を余すところなく描いた超大作である。才能ある被差別階級の忍び:カムイの生き方を軸として、農民、商人、武士など当時の社会を感動的に描いている。少々、理屈っぽい部分もあるが、特に部落差別の仕組みと矛盾について、多面的な立場でじっくりと描いている。農民を中心に描いた一部の他、抜忍の生き方をドラマチックに描いた「カムイ外伝」もおもしろい。そして、カムイ伝三部作の中盤、武士の権力争いを描いた見応えのある二部の完結が望まれる。忍者ものの原点「忍者武芸帳」や短編「ワタカ」なんかも面白い。

自虐の詩    1984  全5巻 業田良家
 私は、この作品を読むまで4コマ漫画は、社会風刺かギャグ漫画のための手法であると思っていた。また、劇画に対して一段低い漫画と位置づけていたかも知れない。この4コマ漫画集は、幸江とその亭主のドタバタ劇である。しかし読み進むうちに、おかしいながら、なぜか、貧しくも小さな幸せを切望する主人公の、やり場のない悲哀に胸を打たれてしまった。マイナーな出版社のために全巻そろえるのに苦労したが、不朽の名作であることには違いない。しかし、この漫画家の他の作品はなぜか興味が持てない。

柔侠伝  1970 全3巻 現代全16巻 昭和全5巻 男全9巻 日本全6巻 バロン吉元
 柔術が柔道と言われるようになった明治時代から、柳という柔道家の生きた近代の世相を描く大河ロマン劇画である。世代を超えて、このシリーズは次々と続くが、私は「男柔侠伝」※「日本柔侠伝」※は持っていない。歴史作品「宮本武蔵」、さらに「殴り屋」や「賭博師たち」など、裏渡世をも得意とするバロン吉元の漫画は、独特な感性と大胆な描写で、どれも見応えがある。

やく    1978  全2巻  画:真崎守  作:草川隆
 真崎守の作品は、コミックマニア受けするようだが、私はそれほど好きではない。しかし、この作品にはさすがに引き込まれた。飛騨の山奥にある中世の薬師の村の、矛盾と薬に対する情熱がたたきつけられるように描かれているからである。「花と修羅」や「はみ出し野郎の伝説」などの青春ものと違って、何度見ても飽きがこない作品である。教養書「老子」なんていうのもある。

GT roman    1986 全11巻 西風
 車や走り屋をテーマとした漫画は数あれど、これだけマニアックで男のロマンあふれる作品はないであろう。スカイラインGT-Rなんか、エンジンをかけるだけでもドキドキものである。人間はちょっと気にいらないが、車の描写に関してはうまいというだけでなく、生き生きとした躍動感にあふれている。取り上げる車はヨーロッパ車が多いが、往年の名車の走りを漫画で味わいたい車好きの人には、一度は読んでみることを勧めたい。

ケイの青春    1989 全14巻 画:小島剛夕 作:小池一夫 
 この時代劇ペアは「子連れ狼」でよく知られているが、名作といえば、この作品と「半蔵の門」、「乾いて候」あたりであろうか。ちょっと変わったところで、「孫悟空」なんかもおもしろい。この劇画は、水戸藩水術指南役の跡取りが、武家の勢力争いに巻き込まれ、様々な事情で苦界に落ちた許嫁を探して彷徨う時代劇である。ひたすら愛する娘を命がけで求める姿に、多くの人の心が揺り動かされる感動の名作ではあるが、ちょっと理屈っぽいと感じるところもないわけではない。「春が来た」「道中師」「畳捕り傘次郎」なんかも佳作である。

K    1988  画:谷口ジロー 作:遠崎史朗
 私が冬山に行き時には必ず読み直す、登山漫画の最高傑作である。天才クライマーKが様々な事情で、ヒマラヤの山に挑むのであるが、厳しい自然に対する人間の傲慢さや、クライマーとしての情熱を感じさせてくれる。谷口の作品には、「神々の山嶺」「神の犬」「ブランカ」「犬を飼う」などの自然や生き物を扱った名作が多いが、関川夏央との近代作家シリーズや「楡の木」「父の暦」など人の生き様を誠実に描き出した作品も多い。そして、驚くことに、どれもがすばらしい作品なのである。この「K」は、保存用と読書用2冊の単行本と文庫本を持っている。文庫本には、単行本にはない「カイラス」が収められている。「餓狼伝」や「サムライ・ノングラータ」といったハードボイルドも、またすばらしい。

ばるぼら    1974 手塚治虫
 日本が世界に誇る手塚治虫にも、スランプの時期があったといわれる。その時期に描かれた一連の作品には、この作品の他に「奇子」「IL」などの特異な作品がある。その中でもこの作品は、自分をモデルにした?苦悩と狂気のインスピレーションが、素直かつ情熱的に描かれているという点で生々しい。個人的には、あまり好きな絵ではない彼の作品であるが、ダイナミックに変身する芸術の女神と奇想天外なストーリーには、強い印象を持った。後に成功する「ブラックジャック」も悪くはない。昭和新山観察の「火の山」なんかも貴重な作品である。アニメはともかく、子どもの頃に見た彼の作品では、「どろろ」「バンパイヤ」が好きであった。他には「ルードビッヒB」「火の鳥」「きりひと讃歌」「マグマ大使」「天地創造」「ロストワールド」などの蔵書もある。

カリフォルニア物語    1979 全8巻  吉田秋生
 なぜ、この漫画を読み出したのかは覚えていない。ただこのゲイ文化どっぷりの作品が、少女コミックに連載されていたということが驚きである。この漫画は、アメリカの下町を舞台とし、不良少年のカリスマ的なリーダーが生き生きと描かれている。それに続く「バナナフィッシュ」「夜叉※」などもよく似た感じだが、「吉祥天女」「きつねのよめいり」「河より長くゆるやかに」「櫻国」のような短編もなかなか良い作品である。しかし、描かれる人間が中性的で、女性の魅力がいまいちである。

綿の国星    1978 全7巻 大島弓子
 24年組と言われる少女漫画の巨匠の中でも、私はこの大島弓子が好きである。何か独特な宇宙があり、メルヘンと現実の中で揺れる人の心を、独特の細い線で描き出している作品が多い。「キララ星人応答せよ」「海にいるのは..」「鳥のように」「雨の音がきこえる」なども持っているが、セブンティーンに連載された「バナナブレッドのプディング」が、人間をあつかった大島作品としては一番好きである。大島作品の中でこの「綿の国星」は、面白い視点で書かれた異色の作品であるが、少女漫画の域を超えた秀作であろう。主人公の雌の子猫を通して、猫と人間の世界を描いたのであろうが、その猫たちの中途半端な擬人化も気にならない。

樹魔・伝説    1980 水樹和佳
 水樹和佳は、私が最も好きな少女漫画家の一人だ。線は細く、動きの描写は硬いのではあるが、彼女の描く人間には、血の通った暖かみと慈愛が感じられるからである。「灰色の御花」「エリオットひとりあそび」などの現代物は、心温まる作品であるし、古代の意欲作「イティハーサ」や「月虹」、「月子の不思議」等のSFものは、実に良く研究された名作に仕上がっている。中でもこの作品はSFものであるが、最新の進化論を背景にしたしっかりした骨組みと、ロマンあふれる人間の心情描写が見事に調和している。

すすめパイレーツ    1979 全11巻  江口寿史
 私はギャグマンガはそれほど好きになれないが、この作品のように徹底的に笑わせてくれる作品は別である。野球を知っていて、昭和40年代のキャラの知識があれば、とにかく面白い。まさに漫画家の天才を存分に味わわせてくれるが、この漫画以降、この漫画家の筆は鈍ってしまったことは、あまりにも有名である。後発の「ストップ!!ひばりくん」、「エイジ」、「ひのまる劇場」など、決して悪くはないのだが、いまいち切れがない。

信長    1987 全8巻   画:池上遼一  作:工藤かずや
 織田信長を扱った作品は数あれど、最も信長らしい信長を描き出していると思われるのがこの作品である。自由奔放の本宮信長やしっかりした横山信長、狂気の小島信長もよりもである。特に香木蘭奢待切り取りなどの後半の表情がよい。背景資料などの無断引用で提訴されて最終巻が出せず、平成16年頃修正版が別の出版社から発刊されたことでも有名である。池上遼一といえば、バイオレンス劇画が有名で、私も「アイウエオボーイ」が最も印象深い。「オデッセイ」「サンクチュアリ」「フリーマン」などもその範疇の作品として楽しめる。

ハイティーン・ブギ    1978 全26巻  画:牧野和子 作:後藤ゆきお
 若い頃、土曜日の昼食を取っていた喫茶店で、夢中になって読んだのがこの漫画である。暴走族でロック歌手の翔と、まじめな桃子の純愛は、ざっくりとした絵で描かれ、一気に読める。私はこの作品以外に牧野和子の作品を読んだことはあまりない。人気の漫画なので、近藤真彦主演で映画化もされたが、もちろんこの手の常であるように、原作とはにてもにつかない駄作となっている。

スプリンター    1980 全14巻  小山ゆう
 子どもの表情がうまい小山ゆうは、なぜか村上もとかと作風がよく似ていると感じる。「おれは直角」「がんばれ元気」などほほえましい作品の他、「お〜い!竜馬」や、スパスパ人を斬り殺すので話題になった「あずみ」などの、ちょっとシビアな青春ものも良い作品に仕上がっている。その中で、「スプリンター」は、その中間的なイメージの作品である。0.01秒を競う陸上短距離走界が舞台で、あらゆる面で恵まれた主人公とライバルが、恋愛をも巻き込んで自分の限界に挑戦していくという緊張感ある作品である。

ぼくんち    1996 全3巻   西原理恵子
 この漫画家の作品を最初に読んだのは、「まあじゃんほおろうき」であった。片山まさゆきのようで、ちょっとねっとりしたギャグ漫画でおもしろかった。その勢いで、この作品を読んだときには、少々感動させられた。高知出身の漫画家であるが、関西風の悲しみも笑い飛ばす作品には、笑いながらも心を打たれるのである。「はれた日は学校をやすんで」「ちくろ幼稚園」なんかも、その傾向の作品である。ビーパルなどのアウトドア紙にも本人の写真入りで参加しているところをみると、アウトドア派の漫画家なのであろうか。

九番目の男    1984  全8巻 画:かざま鋭二  作:高橋三千綱
 この原作者と漫画家のペアの漫画は、とにかく人をくったような強烈なキャラがいて、底抜けに面白い。「Drタイフーン」「セニョールパ」「我ら九人の甲子園」などの作品は、ある意味ふざけ過ぎとも思えるが、ほろっとくるところもあって、元気づけ漫画としては名作である。この「九番目の男」もそのような感じもないわけではないが、とにかくストレートな純愛劇画となっている。力強くそして熱く、愛する人のために生きる姿に感動させられる。

裂けた旅券    1981 全7巻  御厨さと美
 この漫画家は、外人を描くのが非常にうまい。少々オーバーな表情や動きの描写も背景も申し分なく描けている。この作品は、当時の日本とヨーロッパ(主にフランス)の民俗学的なギャップを見事に描き出している彼の代表作である。13歳の売春婦と35歳のヤクザな記者?のユーモラスな純愛を軸としているが、私が最も国際理解の認識を深めることになった優れた作品であった。他にも飛行少女を描いた「イカロスの娘」、軽快なSFアクションの「NORA」なども読み応えがある。個人的には、プレイボーイに連載されたオサム原作の「ケンタウロスの伝説」も好きである。「ビーパルじいさんのアウトドア教本」でもお目にかかれる。

沈黙の艦隊    1988 全32巻 かわぐちかいじ
 原子力潜水艦ヤマトが、全世界に対して国家を主張することによって、戦争と政治の意味を問う秀作漫画である。後半は政治色が強くなって理屈っぽいが、東京湾を脱出するあたりまでは、一隻の潜水艦とアメリカ軍の全面衝突で、爽快きわまりない。彼の作品では、政治・軍事・紛争・芸能などをじっくりと描き出した見応えのある力強い作品が多い。「告白」「軍靴の響き」「プロ」「YELLOW」「アクター」「アララギ特急」「メドゥーサ」「太陽の黙示録」等たくさんの作品を持っているが、「ジパング」もこれとよく似たタッチの漫画である。青年漫画?の最大の売れっ子漫画家といえば彼だろう。

寄生獣    1990 全10巻  岩明均
 漫画の優れた発想が、とんでもない名作を生み出した。この漫画は、人間に寄生する人食い宇宙人と少年との戦いの物語である。しかし、一歩間違えばグロテスクな首切りや人食の場面すら、その大胆な発想とスピード感で、抵抗なく読み進めてしまう。CGを駆使して映画にしてもヒットするであろう。韓国映画の「グエムル」の頭がこの作品の怪物を思い出させてくれた。残念ながら、シャボン玉が空間を切り裂く「七夕の国」という次の作品は、発想は面白いが、こねくりすぎていまいちであった。初期の代表作「風子のいる店」では人間味のある作品にまとまっている。ローマ戦史「ヘウレーカ」でも、残酷な描写が冷静に描かれている。

家裁の人    1988 全15巻  画:魚戸おさむ 作:毛利甚八
 家庭裁判所裁判官が主人公となる漫画は、これが初めてである。草花や樹木をこよなく愛する優れた裁判官が、審判を通して少年犯罪に真っ向から取り組む。その内容はすばらしく、青少年の健全育成に興味を持つ者には、ぜひとも一読してほしい作品となっている。TBSで、 片岡鶴太郎主演でドラマ化されたものを観たが、これはいくつかの話を合体させた不自然なドラマとなってしまっている。経済に進出する少年の物語「斗馬」や、マスターキートンのような考古学者の物語「イリヤッド」も落ち着いて見れる作品である。

ブリキ細工のトタン屋根    1983 全5巻  三山のぼる
 最近は洗練されすぎたきらいもあるのだが、私は、この漫画家のタッチが好きである。その中でも、プロの写真家とハチャメチャ女の繰り広げるこの作品が最もお気に入りである。とにかくこの漫画家は、芸術界を描かせば、生活感あふれるものから狂気じみた尖鋭まで見事に描ききってくれる。骨董界のじゃじゃ馬「骨董屋優子」、どろどろの美術界を描いた「ナイトトリップ」「RAT」「エヴァの時代」や短編集「オームの法則」なんかも秀作であろうか。ちょっとエッチな「臥竜恥記」なんかも代表作なのであろう。

   1991 全−−巻  村上もとか
 村上もとかの作品は、しっとりとした内容の濃い秀作が多く、私の愛読書も多い。その中でこの作品は、戦争に突入する当時の満州を舞台にした、大スペクタクル大作である。当時の政治界、産業界、ヤクザ世界、映画界、格闘界の他、怪しげな玉璧争奪戦なんかもじっくりと描かれている。この漫画家の作品は、他にも「岳人列伝」「NAGISA」「水に犬」「検事犬神」などの小品も味のある作品が多い。少年漫画では「赤いペガサス」シリーズ、「六三四の剣」「ヘヴィ」等の真面目なスポーツものが多い。

あぶれもん    1987 全5巻 画:嶺岸信明 作:来賀友志
 私は麻雀漫画も大好きである。北野英明やほんまりう、能篠純一、片山まさゆきなどの漫画家もいいが、嶺岸信明の作品はリアルで、ばくち打ちの作風がとてもよいのである。特にこの「あぶれもん」の健三のキャラは、麻雀漫画誌像随一である。四国の三打ちを扱ったのもこの作品しか知らない、イソコ(鳥)とチーピン(鉄砲)の攻防には、四国人である私の血が騒いだ。彼の作品には、他にも「風牌に訊け」「ジャングル」「ほおずき」などの作品があるが、作画に徹していることがよいのであろうか。この漫画家の作品で、かわったところでは、「はぐれTC」もある。

ザ・シェフ    1985 全41巻   画:加藤唯史 作:剣名舞
 天才的な技術と法外な報酬を取るといった面で、アウトローの天才医師「ブラックジャック」を料理師版にしたものであるとの評されることが多い作品である。ほとんどが一話完結のショートストーリーで、多くの食堂や待合室でよく見かける漫画である。料理によって、その人に合った食の大切さや、本当の幸せを気づかせるといった展開で気楽に読むことができる。画風もいいし、様々な料理に関するうんちくも多く扱われていることも魅力である。

隻眼の竜  横山光輝   1981 全6巻
 武田信玄の軍師山本勘助の一代記の漫画である。相棒の忍びなど、史実と比べるとかなり眉唾物の内容もあるが、ドラマチックな彼の生涯をしっかりと描ききっている。彼の作品では、子どもの頃読んだ(観た?)「鉄人28号」や「バビル2世※」が印象に残るが、後には歴史漫画を意欲的に描いている。私が持っているだけでも、中国史では「史記」「三国志」「項羽と劉邦」「水滸伝」、日本史では「徳川家康」「織田信長」「武田勝頼」「伊達政宗」と膨大な量である。

海鶴  森秀樹   2000 全3巻
 鶴姫は、瀬戸内海最強の村上水軍の本拠地である、伊予の大三島の大山祇神社の大宮司・大祝の娘である。戦国大名大内氏との死闘のすえ、十八歳の若さで自害したという伝説が残っている。森秀樹の作品は国内外の戦国史を多く描いているが、この漫画では瀬戸内海の覇権に終始したと思われる鶴姫の物語を壮大なドラマにしている。外洋航行に興味を持っている鶴姫は、流れ着いた洋船からみつけた鉄砲を鍵に、倭寇の頭と取引し、関西で見聞を広めていくという、鉄砲伝来の祖として描かれる。ちょっとやりすぎとは思うが...。中国の戦国時代を描いた「墨攻」や甲州の戦国史を描いた「ムカデ戦旗」もどろどろとした戦争の専門家が出てきて、また面白い。

HAPPY MAN  石渡治   1992 全9巻
幕末の志士では、坂本龍馬や勝海舟、西郷隆盛、大久保利通などはいろいろなメディアで語られることが多いが、桂小五郎については薩長同盟前後以外は、なぜか登場することは少ない。そんなことを考えると、小五郎ファンに必読の漫画がこの作品である。石渡治の作品は、他にめぼしい作品がないので持っていないが、エネルギッシュでしっかりした描写力を持つ漫画家ではある。

クマグス  内田春菊   1991 全2巻
 「南くんの恋人」「幻想の普通少女」と、ちょっとエッチでけだるいな大人のシュールな漫画を描いていた内田春菊が、なぜ、ほとんど対立するようなキャラの南方に興味を持ったのであろうか。近代日本の生んだ天才科学者である南方熊楠は、私の最も尊敬する科学者である。熊野に育った南方の少年から青年時代にも興味を持っていたが、内田春菊作品でそれを読もうとは思わなかった。実際、南方らしい青年を見事に描いており、この漫画家を改めて見直してしまった。関連漫画に「クマグスのミナカテラ」がある。

姿三四郎  本宮ひろ志   1984 全4巻
 やんちゃ(すぎる)な男を描くことで、私も中学時代から「男一匹ガキ大将」なんかでなじんできた漫画家である。青春時代は「俺の空」や「男樹」もよく読んだ。この漫画家は、歴史物もよく描いていて、典型的なやんちゃな男である信長や道三を描いた「夢幻のごとく」「猛き黄金の国」や「真田十勇士」「赤龍王」のほか、江川卓伝「実録たかされ」、そして近年は「サラリーマン金太郎」と、少し現実的なものに戻ってきている。

石の花  坂口尚   1983 全5巻
 ナチスドイツがバルカン半島へ侵攻してきたときのユーゴスラビアの苦悩の物語で、坂口尚は、この作品でユーゴスラビア政府から表彰されている。強制収容所の様子やゲリラ活動など、当時の苦悩の歴史が、虫プロで培われた確かな描画能力で描かれている。1995年49歳の若さで亡くなった惜しまれる作家である。

ブリッジ橋  石ノ森章太郎   1980 
 FMレコパルという音楽雑誌には、いろいろな音楽家のエピソードがマンガで掲載されていた。その中のジャズの分野を担当したのが石ノ森章太郎で、ライブコミック「橋」という名で単行本として出版された。 ディスコグラフィー付きの貴重な本である。この萬画家は、ホテル業界を丹念に描いた大作「Hotel」、歴史物でも「芭蕉」「化粧師」「日本の歴史」「日本経済入門」と、多方面に意欲的な作品を残し、世界一多作な漫画としてギネスにも載っているという。

ハルコロ  石坂啓   1992 全2巻
 母が中国人華僑だったということや、創価学会員であることからか、広く社会を見る目を持っている漫画家であるようだ。この作品で描かれる、アイヌの物語は新鮮で、単一民族だと錯覚している日本人には良いお勉強になる。絵が優しくきれいなので、コミカルな若者の関係を描いた「夢みるトマト」や男女関係を問い直す「ハートパートナー」も面白く読める。

マスターキートン 浦沢直樹   1989 全18巻
 正直言って「YAWARA!」※は、面白いだけの娯楽作品だったが、この「マスターキートン」にははまった。名作「破けたパスポート」と「家裁の人」を彷彿とさせる作品である。考古学者、SAS教官OB、ロイズの保険調査員の肩書きで、ヨーロッパ中の怪しい事件と対決する。動物学者のオヤジと高校生の娘もいい味を出している。恋愛からスパイ調査、家族問題、はては国家間の軍事衝突までも遭遇する奇想天外な展開のおもしろさもあるが、一話完結のストーリーであるため、抵抗なく読み進めることができる。「モンスター」は、その点こねくりすぎていまいちで、むしろ「NASA」「踊る警官」などの短編のほうが気楽にみれる。

人間交差点  画:弘兼憲史  作:矢島正雄   1981 全27巻
 この漫画家の作品では大手電機業界の企業界を描いたの「島耕作」シリーズが有名だが、一番感動したのは、この「人間交差点」である。いろいろな設定の人間の一所懸命生きていく姿が、じっくりと描かれている。他にも、マスコミ界を描いた 「ラストニュース」(猪瀬直樹原作)、政治界を描いた 「加治隆介の議」も、それぞれの世界の実態や問題をしっかり研究・分析して描かれているので、それぞれの社会を知るためのよい資料になる。

夏子の酒  尾瀬あきら   1988 全12巻
 酒作りの世界(酒米作りまでも)をこれほど丹念に描き出した漫画はないだろう。造り酒屋と農村社会の現状や問題点にもじっくりと取り組み、幻の酒米と酒造りに情熱を燃やす夏子の一所懸命さには、心打たれる。ドラマ化もされたが、やはりいまいちだった。その続編というか番外編が「奈津の蔵」だろうか。ほかにも「みのり伝説」や「ぼくの村の話」など、女性や若者の生き方について、じっくりと取り組んでいる作品が多い。

こちら大阪社会部  大島やすいち   1992 全9巻+1
 躍動感の伝わる絵のうまい漫画家の一人で、この作品は、その名の通り大阪の新聞社社会部の若手の物語である。おまけとして、阪神大震災編もある。むしろ、この漫画家の魅力は、しっかりした描写力で描く軽快でウィットに富んだスピード感あふれる作品であろう。野球&不良作品の「バツ&テリー」や、ボクシング劇画「神の拳」など、楽しく読める。

TWIN  六田登   1987 全5巻
 ボクシング漫画「陽気なカモメ」や持ってはいないがバスケット漫画「ダッシュ勝平」のころは、小さい少年のほほえましい姿を描いていた。その後、「F」やこの「TWIN」ではレース界を描いている。「F」は、さらに最新進化論をも応用していくこった大作となっているが、スピードレースを純粋に楽しむには、この「TWIN」であろう。その後、この漫画家は、SF系に興味を持ったのか「ICHIGO 二都物語」「バロン」といった怪しげな作品から、時代劇画「歌麿」まで、幅広く活躍している。

花男  松本大洋   1992 全3巻
野球を扱った漫画は掃いて捨てるほどあるが、これほど野球を愛した漫画もあるまい。また、一見ダメ親父が、息子に夢を与えていく心温まるストーリーで、全編を通して親父エネルギーは全開である。バカポンの母のような、スケールの大きい男に対し悟っている?おかあさんもえらい! 「ピンポン」は、優れた卓球漫画として映画化されている。

童夢  大友克洋   1983 
「AKIRA 」「スチームボーイ」などの映画で、世界的に有名な漫画家&アニメーターである。しかし、この天才漫画家の作画の妙を十分に味わえると言えば、この「童夢」であろう。超能力を持つ幼児的老人によるの不可解な殺人事件に対決する超能力少女とが描かれているが、その1画面1画面が話題になるほどの独創的な絵が見所である。他にも「ハイウェイスター」「気分はもう戦争(原作:矢作俊彦)」など、独特のリアリズムを持った劇画がある。

サバイバル  さいとう・たかお   1976 全16巻+1
この漫画家の作品では、待合室マンガの王者「ゴルゴ13」があまりにも有名で、これもほとんど持ってはいる。しかし、もっとも面白いのはサバイバルシリーズであろう。この「サバイバル」を初めて読んだときには、今考えると現実的ではないかも知れないが、いろいろと考えさせられた。「サバイバル Another Story」なんかも出版されている。そのほか、社会現象とも鳴った小松左京原作の「日本沈没」や、隕石落下によるサバイバル劇画「ブレイク・ダウン」もそれなりに面白い。この漫画家は、「無用ノ介」なんかの時代劇も多数描いていて、読んだこともあるが残念ながら所有はしていない。持ってはいないが、あの超人「バロム1」も描いている。

黒茶色ろまんす  陸奥A子   1984 
70年代中頃といえば、りぼん乙女チックラブコメの黄金期であった。スポ根、外国、オカルト、ドタバタ、芸術を題材とした内容から、豊かな時代を背景に身近な学園生活を中心として、なおかつ個性的でメルヘンチックなオシャレな絵が、当時の読者の心をつかんだのであろう。私もなぜか、陸奥A子、太刀掛秀子、小椋冬美、田渕由美子などのそれぞれの個性的な作品掲載されたりぼんの愛読者であった。ドジで内気な女の子のラブロマンスが共通点のように思えるが、その中で、陸奥A子は、このブームの中心的存在として強烈な個性を放っていた感じている。代表作は「たそがれ時にみつけたの」、「こんぺい荘のフランソワ」あたりだが、この作品集も独特なタッチに、さらに構図の工夫や絵のうまさが加わっている。

ミルキーウェイ  太刀掛秀子   1976
前述のりぼん乙女チックラブコメの中では、最も好きだったのが太刀掛秀子の作品であった。ふわっとした優しさが良かったのかも知れない。特にこの作品は、銀河をテーマとしたスケールの大きさ?で、印象が強かったのだろうか。古い少女漫画のでかい星目は、潤んだような優しい目になり、主人公の髪の色がピンクや紫でも気にならなかったところから、ストーリー性とイメージが重要視して見ていたと思われる。当時、私が自ら描いたイラストで少女漫画は、この漫画家の模写だった。このタッチで結構うまく漫画がかけていたと思うのだが..。なお、代表作といえば、比較的長編の「花ぶらんこゆれて」であろうか。この作品も好きだったが、今では、全編読むのはつらい。

ガラスの仮面  美内すずえ   1976 全43巻?
でかい星目の頭でっかちの主人公の古典少女漫画の範疇に入る作品である。巨人の星が巨人野球のイメージを印象づけたのと同様、この作品は演劇に対してのかなり強いイメージを読者に植えつけたと思われる。それほどこの作品の印象は強く、夢中にさせられた人も多い。私も高校生の時に連載を読んでいたが、最近まだ連載継続中だと聞いて再び読み出した。しかし、この漫画家の他の作品の記憶はない。連載と単行本でのストーリーはかなり違うらしいが、最終巻になるだろう43巻の紅天女の舞台を多くの人がみまもっている。

あさきゆめみし  大和和紀   1979 全13巻
この漫画家の作品といえば、週刊少女フレンド連載の「はいからさんが通る 」が有名である。私も高校朝ドラ「おはなんはん」のような時代劇なのだが、どちらかといえばギャグマンガである。私は、線のタッチの潔さが好きで、元気の出る漫画であった。この「あさきゆめみし」は、いろは歌の雰囲気からもわかるように漫画版「源氏物語」である。読み物としての「源氏物語」は、どうしてもいまいちだったが、このようなしっかりした描写力をもつ漫画家が、原文を重視して描いた作品を見れば、すんなりと頭に入っていく。まさに、名作といって良いだろう。他にも単行本は「A列車で行こう」「天の果て地の限り」「菩提樹」を持っているが、いずれも佳作である。

あるまいとせんめんき  しらいしあい   1981 全6巻
この漫画家の代表作といえば「ばあじん・おんど」だろうか。ハイティーンが悩む性の問題に明るくさわやかなタッチで切り込んでいくのがこの漫画家の作品の特徴のようである。この作品は、同棲大学生のすったもんだの物語である。思春期がこれもセブンティーン誌に連載されていたこの作品

青春改札口  しのはら勉   1979 全7巻
 大学生の時に喫茶店で読んで、強い印象を持った作品である。絶対に強要されない流れ者の高校生の男と銀色の髪の妹、ホンダの1500ccのバイク:ゴールドウィングやジッポのライターとアウトローのチキンレース、怪しげな地下の喫茶店等々、不良もの学園劇画の要素が充実している。この漫画家の作品には、他に、「酎ハイれもん」「ぶきっちょ」を持っているが人情漫画であって、「青春改札口」のようなピリピリした緊張感はない。

あしたのジョー  画:ちばてつや  作:高森朝雄   1968 全20巻
 あまりにも有名な名作である。原作者の高森朝雄(梶原一輝)は、スポ根ブームの寵児だったが、反面、自分のイメージを押しつけすぎて、外見だけですぐに飽きられる作品を強要したことも有名だ。そして、この悪名高い梶原一輝との対立によって、人間の豊かな心情が原作に加味されることで、「巨人の星」と違って、永遠に読者に愛されるこの名作を生んだということも有名であろう。「紫電改のタカ」※や「ハリスの旋風」※は、何とか読んだ記憶が残る。

不条理日記  吾妻ひでお   1979 
 昔、「ふたりと5人」の連載をみて、楽しい作風の印象があった。手塚漫画から発展した独特の世界を確立した漫画家であるが、不摂生の中で狂気とも言えるハチャメチャギャグマンガが花開く。この作品はその時のもので、まさに不条理なSFギャグの総決算である。その後、失踪癖とアルコール依存で強制入院となる。その後に描いた自叙伝的な「失踪日記」「うつうつひでお日記」では、ホームレスや不摂生の日々がネタとなり、晩年の太宰治のような状態に至っている。自殺癖がないのが救いであるが...。他にも「贋作ひでお八犬伝」「ななこSOS」を持っている。