otoko-gi 

「ふぅん…、長谷部がねぇ」
 青いガラスの器からツルツルっと三本ほどそうめんを啜った翠は俺が思ったほど過剰な反応を示さなかった。
 控え目に口を動かしている翠へとちらりと視線を向けたあと、
 ズズズズっ
 一気にそうめんの束を吸い上げた俺。
 頬張ったそうめんの咀嚼もそこそこに喉へと流し込みつつ緑が鮮やかな、かき揚げにガブリと噛みつく。
 おっ
 意外にも緑の正体は三つ葉か、と関係の無いことを考えていると、
「…別にビックリしてないわけじゃないんだけどね」
 そう付け足すように言ったのは、俺が言葉を返さなかったからか、にわかに動いた表情を読み取られたか…。
 まぁ拍子抜けはしたが機嫌を損ねたわけじゃない。
 忙しなく口を動かしながら翠に視線を戻すと、
「それほど意外な気がしなかったから」
 続けたその言葉自体が意外で俺は片眉を上げて見せた。
 教室でその話題が出た時は言い出した松前でさえ、ほぼ無縁だろうと思っていたと言うのに…。
「あ゛〜、いや…相手がどうこうとかじゃなく。美都が気にかけてるから何となくそう言う気にさせるタイプかなぁ…って」
 おいおい、何を言い出すのかと思えば、
「気にかけてるつもりはないぞ」
 マナー違反だが箸を向けながら翠にチェックを入れておく。
 翠以外の男にその気になったことはない。
 と、
「うん。別に変な意味で言ってるんでも無いんだけど…」
 箸を置いて考えるふう視線を逸らした翠の瞳が、数秒後に戻った時には頬に笑みがのっていた。
「…優也系、って言えば分かり易いかな。真面目で素直で一生懸命、で世間に疎いとこあるから危なっかしくてつい手をかけてしまいたくなるタイプ」
 俺は少し翠を直視した後、
「長谷部って危なっかしいかなぁ…」
「でも、もし長谷部が遊ばれてただけだったとしたら、沢村を一発ぐらい殴ってやりたいとか思っただろ?」
 …まぁ、そうだ。
「協力してやりたいって思ったから、長居になったんだとも思うんだ」
 それも正解。
「美都って男気あるもんね」
「……」
 こう正面切って褒められると肯定も否定もし難い。
 つまり照れてるわけなのだが、
「おう」
 少し間をおいてそう返すと、おもむろにそうめんを器に入れ、浸け込みもそこそこに、
 ズズズズっ
 っとまた一気に口の中に吸い込んだ。
 モグモグと口を動かしながら視線を戻すと静かに笑みを湛えながら、やはり俺を見ている翠と目が合った。
 と、
「美都のこと、全部大好きだよ」
 とにもかくにも何やら出血大サービスの翠の言葉の理由が分かったのが少し後のベッドの中。


 長谷部に嫉妬してたらしい



 試験前だと言うのに散々盛り上がったことは言うまでもない。












作:杜水月
ホーム > 小説 > どうでもイイ話 > otoko-gi


ご意見・ご感想・ご質問等は 杜水月 まで。
当サイトの無断転載はご遠慮ください。

(c)1999 Mizuki Mori