東洋医学ア・ラ・カ・ル・ト

院主が東洋医学にかかわることを思いつくまま書いた
エッセイ集です

病い膏肓に入る 春の病い
お元気ですか?って何だろう 五臓六腑について
ツボ(経穴)について 患部を温めるべきか冷やすべきか
阿波方言屋根が壊(こわ)ると肩こり


 「病い膏肓に入る」

  「病い膏肓に入る」という成語があります。

「膏肓」とは肩甲骨の裏側にあって、
心臓のすぐ外側を取りまく脂のことです。
ここに病気が入ればどんな治療も治すことはできないと言う意味です。
 少し前、野球好きの方は記憶されていると思いますが、
巨人軍の江川投手が現役引退の引金になった針治療騒動がありました。
あのときの「肩甲骨の裏に針をすれば
もう二度とボールは投げれないよ」と言った中国の針灸師の言葉は
この「病い膏肓に入る」の言葉を意味し、
これ以上肩をつくろいながらの野球生活は無理だよ、
ということを表現したものでした。でも世間ではかなり曲解されて一騒動が起きました。
 この「膏肓」という名を持つツボが肩甲骨の内縁にあります。
ここは疲れはてた心の凝りと肩の凝りなどで安眠できないという方にはまさに最適のツボです。
ストレス社会に必須のツボと言うべきでしょう。
温灸かゴルフボールでの指圧を夜風呂上がりの就寝前に行って下さい。
心地よい刺激と安眠が得られ、明日への活力が甦ってきます。
 

「春の病い」

春夏秋冬は元来、寒暖の度合いではなく、
日照時間の変化で決められていました。
人の身体もこの四季の巡りのリズムに応じて活動していることをご存じですか。 
 2月3日の立春を過ぎれば自然本来の新春を迎えます。
 この時期朝起きにくい、
前日の疲れが取れないなど「春眠暁を覚えず」を身をもって体験している人は、
身体が自然の春のリズムに乗り遅れている状態です。
毎朝「足の三里」に温灸や、指圧をしてください。
陽気が高まって身体の中にも春が訪れます。
 また、急にニキビや吹き出物が増える、目が充血する、
イライラ感が強くなるなどの症状が現れる人は
身体のリズムが春を追い越しています。
こんな人のツボは「太衝」がいいでしょう。
足の甲で親指と示指の間を足首に向かって擦り上げると、指の止まるところです
毎晩、痛いほど強く長い時間指圧してください。気分爽快な朝が迎えられます

 「お元気ですか?って何だろう」

最近「気功術」の流行で「気」という言葉に
かなり馴染まれていると思います。
「気」とは東洋思想独自の概念です。

「気」は旧態字「氣」で、
陽炎のような雲気を表す「气」と
穀物の種子を意味する「米」の字との組み合わせです。
種子は発芽して繁茂していく生命力の象徴です。
その種子から伺える陽炎のような生命エネルギーを
表現している文字が「氣」なのです。
換言すれば「気」とは「生命エネルギー」或いは
「生命力」を意味しています。 

平素のあいさつ「お元気ですか」は、
挨拶としての慣用句ですが、
文法的には日本語にはなっていませんね。
「元気がありますか」と表現すべきでしょう。
「元気」とは東洋医学用語です。
本来的に備わっている大元の生命力そのものをいいます。

ですから「お元気ですか」の挨拶は
「元来備わっている生命力に異状は有りませんか?」という意味です。

「元気」は、父母から受け継いだ先天的な生命力(遺伝体質)と
次世代に継ぐ生殖力を先天の元気、
自身の力で捕食して消化吸収して維持、成長していくエネルギーを
後天の元気と分けて表現することがあります。

この「元気」に異状がある状態が「病気」と呼ばれています。


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  「五臓六腑について」

「五臓六腑に染み渡る」という成語があります。

元来「五臓六腑」とは3000年以上の歴史を持つ東洋医学の言葉なのです。
五臓とは、肝、心、脾、肺、腎を言い、
六腑とは、胃、小腸、大腸、胆、膀胱、三焦を意味しています。

実は今、皆さんが一般知識として持っている臓腑の名称は、
西洋医学の解剖学に基づく名称なのです。

江戸末期に有名な、杉田玄白と前野良択が
「解体新書」を著した事に端を発しています。
彼らはターヘルアナトニアという
オランダの解剖学医書を訳したとき、
それまでの東洋医学の用語をそのまま誰に断りもなく
単純に当てはめて訳してしまったのです。
しかし、東洋の五臓六腑は西洋医学のように
臓器そのものの名称ではありませんでした。
作用、機能を含んだ名称であったことを無視して
言葉を代入してしまったのです。

当然つじつまが合わない箇所も出てきます。
この時初めて、膵臓、神経、動脈静脈などに代表される新成語を作り、
当てはめて解体新書を完成したのです。
ですから東洋医学には膵臓、神経、動脈静脈などの言葉はありません。
いっそ全部をこの新成語にしてくれていれば今の混乱はなかったのですが。

以来、西洋医学の隆盛とともに五臓六腑の呼称は
「ひさしを貸して母屋を取られる」状態が続いています。


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  「ツボ(経穴)について」

東洋医学での健康状態とは、五臓六腑の働き、
全身の気血の流れの安定調和がとれていることを言います。
不健康になり気血のリズムが乱れたときツボ(経穴)に
いろんな信号が現われてきます。

ツボと五臓六腑、全身の筋骨組織には経脈(経絡とも言う)と呼ばれる
全身を網羅している気血の流れ道があります。

ツボと経脈は、一国の鉄道網と
各所の駅の関係にたとえられます。
五臓六腑は監督官庁であったり、
農水産物、工業品の産地などの関係になります。
線路上を運ばれる各種物資が、
何らかの原因で滞ると最寄りの駅が修復活動や
各方面への連絡などの重要ポイントとなります。
本当のツボと経脈の関係によく似ています。

このようにツボは五臓六腑、経脈の異常を伺い知るだけでなく、
それらを修復する治療のポイントにもなるわけです。
同じ線路の中でも大小の駅や、集合離散する大切な駅があるように、
ツボにも特別反応の出やすいツボや治療効果大きツボがあります。

経脈は身体の左右に手足6対づつ、合わせて12対あります。
また身体の前後の中心線上を流れる1対を加え「十四経脈」と呼ばれ
代表的なものとされています。
 
過労、ストレス、嗜好の偏向などによる、しわ寄せが五臓六腑に及び、
その異常が経脈を通していち早くツボに現れ、早期治療に結びつきます。
ツボ療法が「未病を治す」といわれる所以です。

「ツボの知識」のページも参照してください

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「患部を温めるべきか冷やすべきか」

痛みや痺れを訴える方々に共通する悩みに、
自分の症状は温めるべきなのか、冷やすべきなのかで
迷われることが挙げられます。

医院や病院の多くでは、必ずというほど温める療法(温庵法)が行われます。
これは現在の保険制度では冷やす療法には特殊な場合を除き、
健康保険が認められていない事によります。
しかし現実には冷やすことで病状が驚く程良くなる疾患もたくさんあります。

東洋医学では「寒と熱」の病状と治療法は
非常に厳密に分けられています。
寒(冷え)の病状には温める療法を、
熱(炎症など)の病状には冷やす療法を行うのが
大原則となっています。
 
寒証(寒の病状)は患部が冷えると悪化したり、
朝起床時に不調で午後から良好となるなどが
代表的な症状です。

熱証(熱の症状)は、温めると返って悪化する、
また温めた時には気持ちよいが後がすっきりしない、
朝は調子良いが夕刻になると増悪する、
症状が時とともに悪くなるなどが代表的です。

寒熱の療法の間違いが多いのに膝関節炎があります。
患部に明らかに炎症があり腫脹がある時は冷やすべきなのですが、
温庵法などで悪化させているケースが多いのには驚かされます。 
一般に急性の筋や関節の症状(ぎっくり腰、運動過多など)には
冷やす療法がよく、神経痛や慢性の疼痛疾患には
温める療法が適しています。
寒熱の証を参考にして、温・冷の療法を正しく行って下さい。

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  屋根が壊る(やねがこわる)って何?

  最近は耳にすることが少なくなりましたが、阿波の方言で肩凝りのことを、
屋根が壊る(やねがこわる)という言い方があります。
肩の形を屋根に見立てた表現と思われます。
屋根、つまり肩が壊れるような感じだということです。
こわるとは強張ることからとする説もあります。
このように肩を屋根と呼ぶほか「肩びき」「手打ち掛け」
「肩先」「まかた」とも表現されます。
「肩引き」の語源は頑固な肩凝り症を意味する
「痃癖(げんぺき)」から次第に肩癖、肩引きになったとされています。
本来肩引きとは頑固で痛みを伴う肩凝りのことを意味しますが、
肩の部分名称と勘違いされている方も多いようです。
実際肩凝りを訴える方々にどの部分が凝っているのかを
訪ねますと千差万別です。
同じ場所も人によっては様々に表現されているようです。
 
肩凝りは日本独特の症候といわれます。
他の国に肩凝りに相当する表現が見あたらないからです。
気候風土や生活習慣に原因があるのかもしれません。
一般には僧帽筋という項から肩全体、胴背部に分布する
大きな筋肉の凝り感をいっています。
頑固な肩凝りの原因は複雑多岐で特定困難ですが、疾病の前駆症状や
大きな疾病が潜んでいることが多いので注意が必要です。
 東洋医学では肩凝りを訴える場所や状態により病の本体が五臓六腑のどこに
変調があるのかを推察し治療に役立てることがよくあります。

右側の方がよく凝るという方は、肝臓、胆のう系統が弱っていたり
病んでいることが多いとされています。
飲酒過多、過脂肪食、せっかち、イライラとよく頭に来る方、
眼に負担の大きい方、過労気味な方などがこのグループになります。

両肩の凝り、でもどちらかといえば左肩が強いと訴える方に
多いのは胃腸の弱りに原因があるとされます。
急慢性の胃腸虚弱、暴飲暴食、偏甘味食、心配性、
悩みの絶えない方、歯の弱い方、運動不足の方に多いようです。

左肩の凝りを訴える方は心臓に負担が多いからとされています。
いつも心に不安や心配事を抱えている人、最近不眠がち、
疲労しやすい、無気力などを感じる方々に多いようです。

急性な項の凝りは風邪に原因することが多いのですが慢性的な方は呼吸器(肺系統)
の異常とされています。中でも鼻疾患によることが多いようです。

項から外側、一般に頚と呼ばれる部がよく凝る方は耳鼻咽喉、歯、眼の疾患に
よることが多いようです。

このように東洋医学の世界では肩凝りから五臓六腑や五官器の変調を知ったり、
逆に身体全体のバランスを調整する事で肩凝りを治療する方法があります。

   症状によるツボ療法「肩こり」参照


続編作成中