さる



 年末のある日、往診に行った。その家は、谷の一番奥の家であった。玄関先が散らかっている。その家のお嫁さん曰く、「最近、野生の猿が来てね、悪さをするがよ。靴を片方ずつ持っていくがです。ほんとに、なんとかならんろうかねえ。」同行していた事務長曰く、「今度、猿が来たら、僕に言いや。撃ちに来ちゃおうけね。」この事務長は、ただの事務長でなく、有害動物駆除委員をしており、指定された頭数以内であれば有害動物を駆除する許可を出す権利を持っている。猿も射殺可能な事務長なのである。その家から帰ろうとして外に出た瞬間、屋根の上のお猿さんと目があってしまった。一同が息を飲んだ次の瞬間、事務長が我々を残して車でぴゅーといなくなってしまった。暫く後、事務長は散弾銃を抱えて帰ってきた。事務長がお猿さんを裏山に追いつめ、ずどーんと音がした。
 お猿騒動も沈静化し皆の記憶から消えた次の週、診療所の忘年会であった。事務長プレゼンツの「ウサギの鍋」があった。いい香り〜。その肉は砂糖醤油で甘辛く味付けされており、歯ごたえがあったが結構美味しかった。宴会終了後、その肉が先日のお猿さんであることが明かされた。げえ。

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