善人は気楽なもので、父母兄弟、人間どもの虚しい義理や約束の上に安眠し、社会制度というものに全身を投げかけて平然と死んでいく。
だが堕落者は常にそこからハミだして、ただ一人曠野を歩いて行くのである。
悪徳はつまらぬものであるけれども、孤独という通路は神に通じる道であり、善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや、とはこの道だ。

   坂口安吾著 『続・堕落論』 より